「まるで飲む濃厚プリン」「ティラミスのような新感覚コーヒー」。
そんな噂を聞きつけ、ベトナム・ハノイの路地裏で初めてエッグコーヒーを口にした瞬間、私はその虜になりました。(参考文献:The special Vietnamese egg coffee|VIET NAM GOVERNMENT PORTAL ha noi capital)
ふわふわの卵黄クリームと、深く濃いエスプレッソが織りなす、まさに“デザート”と呼ぶにふさわしい一杯。
この記事では、あの感動的な体験談とともに、「生卵って安全?」「カロリーは?」「どうやって作るの?」といった気になる疑問を徹底解説。あなたもきっと、この甘くほろ苦い魅力にハマるはずです。
エッグコーヒーとは?
エッグコーヒー、ベトナム語では「Cà phê trứng(カフェ・チュン)」と呼ばれ、その正体は泡立ててクリーム状にした卵黄を、濃く抽出したベトナムコーヒーの上にたっぷり乗せた二層仕立てのドリンクです。
その歴史は1940年代のハノイに遡り、牛乳が貴重だった時代に代用品として卵が使われたのが始まりとされています。
特に寒い冬を乗り切るための、甘く温かい一杯として人々に親しまれてきました。
お湯を張った器で保温されるホットが定番ですが、氷を入れて楽しむアイススタイルも人気があり、小さなガラスのグラスやカップで提供されるのが一般的です。
エッグコーヒー、私の体験談
シーン:路地の小さなカフェで
ハノイ旧市街。バイクが行き交う喧騒から一本脇道へ入ると、時間が止まったような小さなカフェがありました。年季の入った木製の椅子、壁のレトロなポスター、そして奥のカウンターから漂う、コーヒー豆の香ばしさと何かが焼ける甘い香り。肌寒さを感じる店内で、湯気を立てる小さなグラスが運ばれてきた瞬間は、今でも鮮明に思い出せます。
口に入れた瞬間の味と食感
スプーンですくったクリームは、想像以上に濃厚で、カスタードのように滑らか。口に入れると、バニラのような甘い香りがふわっと広がります。その直後、グラスを傾けてコーヒーを流し込むと、ガツンとくるエスプレッソの苦味とクリームが混ざり合い、一瞬でティラミスのような味わいに変化しました。ふわとろの甘さと、後を引くほろ苦い余韻。これは飲み物というより、一つの完成されたデザートでした。
二杯目で気づいた「正解の飲み方」
一杯目は夢中で飲み干してしまいましたが、二杯目では少し冷静に楽しみ方を探求しました。私が見つけたのは、まずスプーンで上のクリームだけをすくって濃厚な甘さを堪能し、次にグラスを傾けて下のコーヒーの苦味と香りを感じ、最後に全体をゆっくりかき混ぜて一体となった味わいを楽しむという飲み方です。混ぜ具合で刻々と味が変わるため、自分だけの黄金比を見つける過程そのものが、このコーヒーの醍醐味だと気づきました。
誕生の背景とハノイ文化
エッグコーヒーは、単なる珍しいドリンクではありません。
それはハノイの歴史と文化が凝縮された一杯なのです。
かつてフランス統治下にあったベトナムではカフェ文化が花開き、特にハノイ旧市街には人々が集う社交場として多くのカフェが生まれました。
冬の寒さが厳しいハノイでは甘く温かい飲み物が好まれる習慣があり、1940年代、戦争の影響で牛乳が手に入りにくくなった際に、あるカフェの創業者が代用品として卵黄を使ったのがエッグコーヒーの始まりです。
この工夫が、今や世界中の観光客を魅了するハノイ名物を生み出したのです。
古い建物が残るカフェで飲むエッグコーヒーは、そんな歴史が醸し出すレトロな雰囲気も味わえます。
【味の仕組み】なぜ「デザートの満足感」が出る?
エッグコーヒーがもたらすデザートのような満足感は、巧みな味覚のコントラストによって生まれます。
まず、卵黄クリームが持つ濃厚な甘味とコクが、ベトナムコーヒー特有の強い苦味と酸味を優しく包み込む味覚設計が見事です。
さらに科学的に見ても、卵黄に含まれるレシチンが持つ乳化作用が、空気を含んで泡立つことで驚くほどクリーミーな口当たりを生み出し、コーヒーの鋭い角を取る役割を果たしています。
そして、コーヒーの焙煎香とカスタードを思わせるミルキーな香りが嗅覚を刺激し、飲む前からデザートを予感させるのです。
エッグコーヒー作り方の基本(家庭再現ガイド)
この本格的な味は、意外にも家庭で再現することが可能です。
重要なのは、卵黄クリームをとにかく“もったり”するまで泡立てることです。
材料は、卵黄1個に加糖練乳大さじ2、そして香り付けのバニラエッセンスを1〜2滴。
これをボウルに入れ、ハンドミキサーで白っぽく、持ち上げた時にリボン状に垂れるくらいまでしっかりと泡立てます。
艶が出てきたら泡立て完了の合図。あらかじめお湯で温めておいた耐熱カップに濃いめに淹れたコーヒーを注ぎ、その上から完成したクリームをそっと乗せれば、美しい二層のエッグコーヒーが出来上がります。
コツは卵黄を常温に戻しておくこと。そうすることで泡立ちが格段に良くなります。
ラム酒を数滴加えたり、シナモンを振ったりする応用も楽しめます。
安全性とカロリーの話
「生の卵黄」と聞くと、衛生面が気になる方もいるでしょう。
ベトナム現地の人気店では、もちろん新鮮な卵を使い、衛生管理を徹底しています。
もし心配な方は、クリームを湯煎で軽く温めて提供しているお店を選ぶのも一つの手です。
日本で自作する場合は、必ず新鮮な食用の生卵を使いましょう。
カロリーは、砂糖の量によりますが一杯あたりおよそ200から300kcalが目安です。
デザート一品と捉えれば、決して高すぎる数値ではないかもしれません。
砂糖を控えめにしたり、練乳の代わりに低脂肪乳でアレンジしたりと、工夫次第でよりライトに楽しむこともできます。
現地での注文・楽しみ方
ベトナムのカフェで注文する際は、いくつかのフレーズを覚えておくと便利です。
温かいホットは「Cà phê trứng nóng」(カフェ チュン ノン)、冷たいアイスは「Cà phê trứng lạnh」(カフェ チュン ラン)と伝えます。
甘さを控えめにしたい時は「Ít ngọt」(イッ ゴッ)と添え、コーヒーの苦味をより強く感じたいなら「Cà phê đậm」(カフェ ダム)と頼むこともできます。
現地ではカップが冷めないようお湯を張った器に乗せて提供されることが多く、お店の心遣いが感じられます。
クリームとコーヒーが美しい層を成している状態で運ばれてくるので、飲む前に写真を撮るのがおすすめです。
どこで飲める?旅のヒント
エッグコーヒーを飲む場所を探すなら、まず本場ベトナム、特にハノイが最適です。
旧市街に点在する老舗系のカフェでは、地元の人々に愛される本物の味と歴史の重みを感じられるでしょう。
一方で、若者が経営するおしゃれな新世代カフェでは、写真映えする内装やユニークなアレンジを加えた一杯に出会えます。
日本国内でも、都市部の本格的なベトナム料理店やカフェで提供されていることがあります。
「エッグコーヒー 東京」といったキーワードで検索すれば、きっとお近くのお店が見つかるはずです。
ただし、季節限定メニューの場合もあるため、訪問前に確認することをおすすめします。
似ている/違うベトナム甘口コーヒー
ベトナムには他にも甘いコーヒーがあります。
代表格である練乳コーヒー「Cà phê sữa đá」との最大の違いは、エッグコーヒーが持つ卵黄クリーム由来のふわふわとした食感と、カスタードのような深いコクです。
練乳コーヒーのストレートな甘さとはまた違った、複雑でリッチな味わいが楽しめます。
また、コーヒーが苦手な方向けに、ココアを使った「エッグカカオ」や、抹茶と組み合わせた「エッグ抹茶」といった派生メニューも存在し、いずれも濃厚なデザートドリンクとして人気です。
よくある失敗とリカバリー(自作時)
もし自宅で作ってみて、クリームがゆるくなってしまったら、それは泡立て不足か砂糖が足りないことが原因かもしれません。
もう少し泡立てるか、砂糖や練乳を少し足して再度泡立ててみましょう。
コーヒーと混ざって綺麗な層にならない場合は、両者の温度差が大きい可能性があります。
コーヒーを少し冷ますか、クリームをスプーンでゆっくりと乗せるように注ぐとうまくいきます。
万が一、卵の生臭さが気になったとしても、バニラエッセンスやラム酒をほんの数滴加えるだけで、その香りを効果的にマスキングできます。
エッグコーヒーに関するよくある質問
Q1. エッグコーヒーに使われる生卵は、衛生的で安全なのでしょうか?
A1. 現地の評判の良いカフェでは、毎日新鮮な卵を仕入れて衛生管理を徹底しているため、過度に心配する必要は少ないでしょう。ただし、ご自身の体調に不安がある場合や、どうしても気になる方は、クリームを湯煎で軽く加熱して提供しているお店を選ぶとより安心です。日本でご自身で作る際は、必ず「生食用」と表示された新鮮な卵を使用してください。
Q2. 卵が入っていると聞くと、生臭さや卵の味が気になります。実際のところ、どんな味ですか?
A2. 適切に作られたエッグコーヒーに、卵の生臭さはほとんどありません。その秘密は、卵黄を砂糖や練乳、バニラと一緒に、空気をたっぷり含ませながら高速で泡立てる工程にあります。これにより、卵はカスタードクリームのような、まろやかで甘い風味に変化します。味のイメージとしては、「飲むティラミス」や「濃厚なカスタードプリンにエスプレッソをかけたデザート」を想像していただくのが一番近いです。
Q3. エッグコーヒーは混ぜて飲むべきですか?それとも混ぜずに飲むべきですか?
A3. これには決まった「正解」はなく、どのように楽しむのも自由です。おすすめの飲み方は、まずスプーンで上のクリームだけをすくってその濃厚な甘さを味わい、次にグラスを傾けて下のコーヒー本来の苦味を感じてみてください。その後、ご自身の好みに合わせて少しずつ混ぜながら、クリームとコーヒーが一体となっていく味の変化を楽しむのが醍醐味です。自分だけの黄金バランスを見つける過程も、エッグコーヒーの魅力の一つと言えるでしょう。
まとめ:一杯で“旅の温度”が蘇る
エッグコーヒーは、単なる飲み物ではなく、ハノイの空気、歴史、そして人々の温かさまで感じさせてくれる“体験”でした。
あの「濃厚プリン×エスプレッソ」の衝撃は、今でも私の旅の記憶を鮮やかに蘇らせてくれます。
もしあなたが初めてエッグコーヒーを試すなら、まずは王道の「ホット」を「甘さ控えめ(Ít ngọt)」で注文してみてください。
そして、この記事を参考に、ぜひご自宅での再現にも挑戦してみてはいかがでしょうか。
きっと、その甘くほろ苦い一杯が、あなたに新しい扉を開いてくれるはずです。