ハノイの老舗カフェで生まれた“卵クリーム系ドリンク”は、コーヒーだけじゃないのをご存知でしょうか。その名も「エッグココア」。
濃厚なホットココアに、ふんわりと甘い卵黄クリームをのせたこの一杯は、コーヒーが苦手な方やカフェインを控えたい夜、そして子ども連れの旅行者にも愛される、もう一つのハノイ名物です。
この記事では、エッグココアの定義や味わい、エッグコーヒーとの違い、そして気になる誕生の背景から、現地のカフェで使える注文フレーズ、家庭で楽しめる再現レシピまで、その魅力を余すことなくご紹介します。
エッグココアとは?
エッグココアは、ベトナム語で「Ca cao trứng nóng(カカオ・チュン・ノン)」と呼ばれる温かい飲み物です。
その正体は、泡立てた卵黄と砂糖、または練乳で作ったカスタードのようなクリームを、濃いめのホットココアに浮かべた美しい二層のドリンクです。
甘く濃厚で、まるで“飲むチョコムース”のような贅沢な口当たりが特徴と言えるでしょう。
コーヒーを使用していないためカフェインを含まず、夜のリラックスタイムにもぴったりです。カフェインに弱い方や、お子さんでも安心して楽しめる優しい味わいが魅力です。
エッグコーヒーとの違い
ベトナムの卵を使ったドリンクとして有名な「エッグコーヒー」とは、どこが違うのでしょうか。
両者の最も大きな違いは、ベースとなる飲み物にあります。
エッグコーヒーが濃いベトナムコーヒーの苦味と卵クリームの甘さが織りなす、キレのあるコントラストを楽しむ「大人のデザートドリンク」であるのに対し、エッグココアは濃いココアをベースにしています。
そのため、ココアが持つ丸い甘さと卵クリームが一体となり、よりデザート感の強い、誰にでも愛される「癒やしのデザートドリンク」と言えるでしょう。
コーヒーが好きな方はエッグコーヒーを、カフェインを控えたい方や甘いものが好きな方、お子さん連れにはエッグココアがおすすめです。
味わいの構造
エッグココアの味わいは、複数の要素が層となって構成されています。
甘みは中程度から高めで、ココア由来の苦味はほとんど感じられません。
一方で、卵黄クリームがもたらすコクは非常に高く、カカオと卵のミルキーな香りが豊かに立ち上ります。
まずスプーンで上のクリームだけをすくって食べると、カスタードのような濃厚な甘さが口いっぱいに広がり、次にクリームと下のココアを軽く混ぜ合わせることで、チョコムースのような風味へと変化します。
この味の変化を楽しむのが、エッグココアの醍醐味です。
誕生背景と“派生メニュー”の広がり
エッグココアのルーツは、やはりハノイ名物の「エッグコーヒー」にあります。
1940年代、フランスとの戦争で牛乳が不足した際に、ハノイのバーテンダーが牛乳の代わりに卵黄を泡立ててコーヒーに加えたのがエッグコーヒーの始まりと言われています。
この「卵黄クリーム」という独特の文化が、やがてコーヒー以外の飲み物にも応用されるようになりました。そうして生まれたのがエッグココアであり、他にもエッグ抹茶やエッグビールといったユニークな派生メニューも登場しています。
当初は一部のカフェで提供される珍しいメニューでしたが、今では観光客向けのカフェから現地の若者が集まるモダンなカフェまで、幅広く提供されるようになりました。
現地での注文フレーズ(実践用)
ベトナムのカフェでエッグココアを注文する際に使える、簡単なベトナム語フレーズをご紹介します。
温かいエッグココアは「Ca cao trứng nóng(カカオ チュン ノン)」と伝えます。もし冷たいものがよければ、語尾を変えて「Ca cao trứng lạnh(カカオ チュン ラン)」と注文しましょう。
甘さを控えめにしたい場合は「Ít ngọt(イッ ゴッ)」、濃厚なクリームを増量してほしいときは「Thêm kem trứng(テム ケム チュン)」と付け加えると、好みに合わせた一杯を淹れてもらえます。
はじめての飲み方・楽しみ方
エッグココアを最大限に楽しむには、おすすめの飲み方があります。
まず、カップが運ばれてきたら、いきなり混ぜずにスプーンで上の卵クリームだけをすくって味見してみてください。濃厚で甘いカスタードのような風味を堪能できます。
次に、スプーンでゆっくりと1〜2回だけ混ぜ、美しいマーブル模様を作ります。
完全に混ぜきるのではなく、クリームとココアがまだらに混ざり合う状態で飲むと、一口ごとに異なる味わいの変化を楽しめるでしょう。もし甘さが強いと感じたら、テーブルに置かれている塩をひとつまみ加えるのも通な楽しみ方です。
味が引き締まり、また違ったコクが生まれます。
家庭で作るエッグココア
旅の思い出を、ご自宅で再現してみませんか。意外と簡単に作れる、本格エッグココアのレシピです。
材料は1杯分で、卵黄1個分、砂糖または練乳を大さじ1、牛乳150ml、純ココアパウダー大さじ1をご用意ください。お好みでバニラエッセンスを少々と、香りづけにラム酒を1滴加えるのもおすすめです。
作り方はまず、ボウルに卵黄と砂糖(または練乳)、バニラエッセンスを入れ、ハンドミキサーなどで白っぽく、すくうとリボンのように垂れ落ちるくらいまでしっかりと泡立てます。
次に、小さな鍋に純ココアパウダーと少量のお湯を入れてペースト状に練り、牛乳を少しずつ加えながら混ぜて弱火で沸騰直前まで温めます。
最後にあらかじめお湯で温めておいたカップにホットココアを注ぎ、その上から泡立てた卵クリームをそっとのせれば完成です。
カップを事前に温めておくと、美しい二層が安定しやすくなります。
安全性・カロリーの話
エッグココアには生卵黄を使用するため、安全性には少し注意が必要です。
旅行中にカフェで飲む際は、清潔で信頼できるお店を選びましょう。ご家庭で作る場合は、必ず新鮮な卵を使用し、心配な方は低温殺菌された卵を選ぶことをお勧めします。
また、カロリーは使用する砂糖や練乳の量によりますが、一杯あたりおよそ200〜300kcalが目安となります。
気になる場合は、砂糖をエリスリトールなどの代替甘味料に置き換えたり、牛乳を低脂肪乳やスキムミルクにしたりすることで、よりヘルシーに楽しむことが可能です。
どこで飲める?店選びのコツ
ハノイで美味しいエッグココアに出会うには、いくつか店選びのコツがあります。
まず、エッグコーヒー発祥の店が集まる旧市街エリアで、卵クリーム系のドリンクを得意とするカフェを狙うのが近道です。美味しいお店の多くは、ホットドリンクが冷めないよう、お湯を張った受け皿に入れて提供してくれます。
このひと手間が味を保つ秘訣であり、良いお店を見分けるポイントにもなります。また、提供されたときにクリームがしっかりと泡立ち、こんもりと盛り上がっているかも確認しましょう。丁寧に作られている証拠です。写真を撮るなら、比較的空いていて自然光が綺麗な午後のカフェタイムがおすすめです。
アレンジ&ペアリング
基本のエッグココアをさらに楽しむためのアイデアもご紹介します。もし味に変化をつけたくなったら、仕上げにシナモンパウダーやカカオニブを振りかけると、香りと食感のアクセントが加わります。塩キャラメルソースを少し垂らして、甘じょっぱい複雑な味わいを試すのも良いでしょう。フードと合わせるなら、ビスコッティやココナッツクッキーといった、シンプルな焼き菓子との相性が抜群です。また、よりヘルシー志向の方は、カカオを多めにして低脂肪乳で作る軽めの仕様にアレンジするのもおすすめです。
よくある質問
Q. コーヒーが苦手でも大丈夫?
A. はい、大丈夫です。ベースはココアなので、コーヒーの苦味が苦手な方でも美味しく召し上がれます。
Q. 子どもも飲める?
A. はい、飲めます。ノンカフェインなのでお子さんにも安心です。ただし、甘さが強いので砂糖の量には配慮し、卵の衛生管理がしっかりしたお店を選んであげてください。
Q. アイスで飲むときのコツは?
A. アイス(lạnh)も人気です。クリームが薄まらないように、氷は少なめにしてもらうのがおすすめです。ホットとは違い、クリームとココアが混ざり合った、冷たいデザートドリンクのような感覚で楽しめます。
【まとめ】エッグココアをお試しあれ
エッグココアは、ベトナム・ハノイが育んだ卵クリーム文化の“やさしい入り口”です。
コーヒーの苦味が苦手な方でも、その甘く濃厚な魅力を存分に味わうことができます。
まずはホットでクリームとココアの層が織りなす味のコントラストを楽しみ、次にアイスでひんやりとしたデザート感を味わう。そんな風に飲み比べてみれば、それぞれの魅力がより一層際立つはずです。
ハノイを訪れた際には、この甘い一杯で、旅の合間にほっと一息ついてみてはいかがでしょうか。