フォーやバインミーが有名なベトナムですが、実は南北に長い国土と大河の恵みを受けた「魚料理大国」でもあります。

市場には日本では見かけない魚も多く並び、現地の人々の食卓には肉料理以上に魚が欠かせません。

しかし、旅行者にとってベトナム語のメニューは難解で、「どの魚を選べばいいの?」「味付けやクセは?」と注文をためらってしまうことも多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、ベトナムで愛される代表的な淡水魚・海水魚の種類から、絶対に外せない定番メニュー、そして地域ごとの食文化の違いまでを網羅的に解説します。

ベトナムの魚料理の特徴とは?「ベトナム 魚」で調べる前に知っておきたい基礎知識

ベトナム料理といえば野菜が豊富でヘルシーというイメージがありますが、実は日本人と同じか、それ以上に魚好きな国民性を持っています。

まずはベトナムの魚料理を取り巻く基礎知識を押さえておきましょう。

ベトナムはS字型の国土の東側全体が海に面しており、内陸には北部の紅河、南部のメコン川という二大河川が流れています。

そのため、海水魚はもちろん、淡水魚の漁獲や養殖が非常に盛んです。

市場に行けば、桶の中で元気に跳ねる生きた魚が売られており、鮮度へのこだわりは並々ならぬものがあります。朝食から夕食まで、魚はベトナム人の食卓に欠かせないタンパク源なのです。

ベトナムの魚料理を語る上で外せないのが、カタクチイワシを発酵させて作る魚醤ヌックマムです。

煮込み料理のベースに使ったり、揚げ魚のつけダレにしたりと、魚の旨味をさらに引き立てる役割を果たします。

また、淡水魚特有の匂いを消すために、ディルやレモングラス、生姜、ターメリックなどのハーブやスパイスを多用するのも特徴です。

南部の煮込み料理では、砂糖やココナッツジュースを使った甘辛い濃厚な味付けが好まれます。

日本人がベトナムで魚料理を食べるときに少し驚くのが、小骨の多さと淡水魚の風味です。日本では骨を抜いて調理することが増えていますが、ベトナムの家庭料理や大衆食堂では、骨付きのままぶつ切りにして調理するのが一般的です。

現地の人々は口の中で器用に骨を取り除いて食べますが、慣れていない日本人は注意が必要です。

また、淡水魚は調理法によっては泥臭さが残ることもありますが、これを香草や強い味付けでカバーして食べるのがベトナム流の楽しみ方です。

ベトナム人の食文化における「魚」の位置づけ

特にメコンデルタ地方などの水郷地帯では、鶏肉や豚肉よりも魚の方が安価で手に入りやすいため、日常のおかずの主役は圧倒的に魚です。白いご飯に魚の煮付け、そして酸っぱい魚のスープというのが、ベトナムの農村部における典型的な定食スタイルとなっています。

またベトナムには、食材を体を温める熱と冷やす寒に分ける東洋医学的な考え方が根付いています。揚げ物や肉料理ばかりだと体が熱くなるとされ、バランスを取るために魚や野菜のスープが好まれます。また、DHAなどの栄養面から子供の頭を良くするために魚を食べさせるという親心は、日本もベトナムも変わりません。

淡水魚と海水魚がどちらも身近にある国

ハノイを中心とする北部と、ホーチミン以南の南部デルタ地帯では、淡水魚が食生活の中心です。ライギョやナマズ、コイの仲間など、川や池で獲れる魚が日常的に食卓に並びます。一方で、ダナンやニャチャンといった中部の沿岸都市やフーコック島などの離島では、海水魚がメインになります。アジ、サバ、カツオ、イカ、エビなど、日本でも馴染み深い魚介類が、ベトナム風の味付けで楽しまれています。

ベトナムでよく食べられる「淡水魚」と代表メニュー

ここでは、ベトナム、特に南部や内陸部で親しまれている代表的な淡水魚を紹介します。

バサ(cá basa)・チャー(cá tra)などのナマズ類

ベトナムの淡水魚の代表格といえば、メコン川で養殖されているパンガシウス科のナマズ、バサやチャーです。白身で脂が乗っており、ふっくらとした食感が特徴です。クセが少なく、皮や骨を取り除いたフィレの状態に加工しやすいため、日本や欧米にも白身魚として大量に輸出されています。

よくある料理としては、カイン・チュア・カー・バサというタマリンドの酸味が効いたスープが挙げられます。脂の乗ったバサの腹身が酸味のあるスープとよく合います。また、カー・バサ・コー・トと呼ばれる土鍋で甘辛く煮込んだ料理も人気で、ご飯が進む最強のおかずとして親しまれています。

ライギョ(cá lóc)

ベトナム語でカー・ロックと呼ばれるライギョは、見た目は黒くて少し怖いですが、ベトナム人が最も愛する淡水魚の一つです。見た目に反して身は真っ白で美しく、淡白ながらもしっかりとした旨味があります。身が引き締まっており、煮崩れしにくいのも特徴です。

代表的な料理には、カー・ロック・ヌオン・チュイという、藁を使って丸焼きにする豪快な料理があります。香ばしい皮と蒸し焼きになった身をライスペーパーで巻いて食べます。また、バイン・カイン・カー・ロックのように、タピオカ麺を使った汁麺の具材としても定番です。

ティラピア(cá rô phi)

日本でもかつてイズミダイとして流通していたティラピアことカー・ロー・フィーは、ベトナム全土で養殖されている大衆魚です。非常に安価で、白身で食べやすい魚ですが、泥臭さを感じやすい魚でもあるため、揚げたり濃い味付けにしたりするのが一般的です。

例えば、カー・ロー・フィー・チエン・スーのように鱗をあえて残したり、衣をつけたりしてパリパリに揚げたものをヌックマムベースのタレで食べます。また、揚げたティラピアをトマトソースで煮込んだソット・カー・チュアも家庭料理としてよく登場します。

そのほかの淡水魚(cá trê など)

カー・チェーと呼ばれる髭の長いナマズは脂が多く、炭火焼きにして食べることが多い魚です。また、カー・ケオというハゼの仲間は指くらいの太さの小魚で、メコンデルタ地方の名物です。生きたまま鍋に入れて食べるカーケオ鍋が有名です。淡水魚特有の臭みが気になる場合は、揚げ料理や酸っぱいスープを選ぶと、ハーブやスパイスの効果で美味しく食べられます。

ベトナムでよく食べられる「海水魚」と代表メニュー

海沿いの街や観光地で出会える、美味しい海水魚も紹介します。

サバ(cá thu)

カー・トゥーと呼ばれるサバ、主にサワラやニジョウサバの仲間は、ベトナムでも高級魚かつ人気の魚です。日本のサバと同様に脂が乗っていますが、ベトナムでは切り身にしてしっかりと火を通すのが一般的です。トマトソースで煮込んだカー・トゥー・ソット・カー・チュアはトマトの酸味がサバの脂をさっぱりさせてくれます。また、サバなどのすり身揚げを乗せたブン・チャーカーという麺料理も人気です。

アジ(cá nục)・イワシ系の小魚

カー・ヌックと呼ばれるアジやイワシなどの小魚は、庶民の味方です。市場や食堂で山積みにされているのをよく見かけます。安くて栄養満点ですが小骨が多いので、圧力鍋や土鍋で骨まで柔らかく煮込む調理法が好まれます。カー・ヌック・コーというアジの煮付けはご飯のお供の定番ですし、シンプルにカリカリになるまで揚げたカー・チエンは頭から食べることもあります。

ニシン・その他の海水魚(cá trích など)

中部の海沿いでは、カー・チックと呼ばれるニシンなどの新鮮な魚を使った料理が名物です。特にフーコック島やダナンの名物であるゴイ・カー・チックは、生のニシンをレモン汁で締め、ハーブやココナッツ、ピーナッツと和えたサラダ風の料理です。ライスペーパーで巻いて食べれば、酒の肴に最高です。

都市部で人気のサーモン(cá hồi)

意外かもしれませんが、近年ホーチミンやハノイの若者の間ではカー・ホイと呼ばれるサーモンが大人気です。北部のサパなどの冷涼な地域ではサーモンの養殖も行われています。ラウ・カー・ホイというサーモン鍋は酸っぱ辛いスープで食べるのがベトナム流ですが、日本食ブームの影響で生のサーモンも広く食べられています。

ベトナムの魚を使った定番・人気メニュー一覧

魚の種類だけでなく、調理法からメニューを選ぶのもおすすめです。

家庭料理・大衆食堂で出会う魚料理

ベトナムの国民食とも言えるおかずが、カー・コー・トという魚の甘辛土鍋煮込みです。砂糖やカラメルソースとヌックマムで濃く味付けされ、ご飯が止まらない味です。淡水魚のバサやライギョがよく使われます。また、カイン・チュア・カーという酸っぱい魚スープも外せません。パイナップル、トマト、タマリンド、ハスイモなどの野菜と魚を煮込んだスープで、暑いベトナムで食欲をそそる、酸味と甘味のバランスが絶妙な一品です。

麺料理で楽しむ魚(bún cá・bánh canh cá など)

ブン・カーは、揚げた魚の切り身や魚のすり身が入った米麺です。スープは魚介ベースであっさりしており、日本人にも非常に食べやすい味です。バイン・カイン・カーはタピオカ粉を混ぜたもちもちの太麺を、とろみのある魚出汁スープで頂く料理で、こちらも人気があります。

鍋料理で味わう魚(lẩu cá)

ベトナム人は鍋が大好きで、大人数で集まると必ずと言っていいほど鍋を囲みます。ラウ・カーと呼ばれる魚鍋は、魚の切り身、大量の野菜や香草を甘酸っぱいスープで煮て食べます。具材は煮えたら取り出し、ヌックマムにつけて食べるのがマナーです。

名物料理「チャーカー・ラーボン(chả cá Lã Vọng)」など

北部ハノイ発祥の伝統料理にチャーカー・ラーボンがあります。ターメリックで黄色く色付けした魚の切り身を、たっぷりのディルやネギと一緒に油で炒め煮にします。これをブンと一緒に、マムトムという発酵海老味噌やヌックマムだれで食べる、非常に香りの高い料理です。

地域別に楽しみたいベトナムの魚料理

ベトナムは南北に細長い地形をしており、気候や地理的条件が地域によって大きく異なります。

そのため、魚料理も「どこで食べるか」によって、使われる魚の種類や味付けの傾向がガラリと変わります。

ここでは、北部・中部・南部の3つのエリアに分けて、それぞれの土地ならではの魚食文化と特徴を紹介します。

北部(ハノイ周辺)の魚料理の特徴

ハノイなどの北部では、海から少し離れていることもあり、伝統的に川魚料理が発達しました。特徴的なのはディルというハーブを多用することです。魚の臭み消しとして、スープや炒め物にたっぷりと使われます。味付けは南部ほど甘くなく、塩気と旨味を重視した比較的あっさりした味が多いです。

中部(ダナン・フエ・ニャチャン)の魚料理

長い海岸線を持つ中部は、新鮮なシーフードの宝庫です。市場には色とりどりの海水魚が並びます。中部の魚料理は、唐辛子を効かせた辛い味付けが特徴です。名物のブン・チャーカーは、ダナンやニャチャンを訪れたら必ず食べたい一品と言えます。

南部(ホーチミン・メコンデルタ)の魚料理

メコン川の恵みを受ける南部は、巨大な淡水魚と豊富な野菜やハーブが魅力です。料理は砂糖やココナッツジュースをたっぷり使った、甘みとコクのある味付けが基本です。ワイルドなライギョの丸焼きや巨大手長エビなどは、南部の豊かさを象徴する料理です。

ベトナムで魚を楽しむための注文・買い物ガイド

基本の魚の名称や調理法のキーワード、鮮度の見分け方さえ知っていれば、オーダーは意外と簡単です。

ここでは、レストランでの注文や買い物ですぐに役立つ実践的なテクニックを紹介します。

メニューで使われる魚のベトナム語と読み方

これだけ覚えておけばメニューが読めるようになる、基本の単語を紹介します。魚はベトナム語でカーと言い、カー・ロックならライギョ、カー・バサならナマズ、カー・トゥーならサバを指します。調理法も重要で、チエンは揚げる、ヌオンは焼く、コーは煮る、ハップは蒸す、ラウは鍋という意味になります。これらを組み合わせることで、どんな料理か想像がつくようになります。

レストランでの魚料理の選び方・頼み方

小骨が苦手という方は、メニュー写真を見て切り身になっているものを選ぶか、揚げ魚であるカー・チエンやさつま揚げのチャーカーを選ぶのが無難です。煮魚であるカー・コーは美味しいですが、骨ごとぶつ切りの場合が多いので注意しましょう。臭みが心配な場合は、ヌオン(焼き)やチエン(揚げ)など、香ばしく調理されたものからトライするのがおすすめです。

市場・スーパーでの魚の選び方と注意点

市場で魚を買う場合は、桶の中で泳いでいる生きた魚を選ぶのが鉄則です。お店の人に指差しで伝えれば、その場で締めて下処理をしてくれます。旅行者や衛生面が気になる方は、大型スーパーマーケットの鮮魚コーナーを利用しましょう。パック詰めされており、鮮度管理もしっかりしています。調理の際は、寄生虫などを防ぐため、必ず中までしっかりと火を通すことを心がけてください。

日本でもベトナムの魚を楽しむ方法

ベトナムで食べたあの魚料理が恋しい、あるいは現地の味を家庭で試してみたいという方も多いでしょう。

ここでは、日本にいながらベトナムの魚食文化を楽しむためのヒントをご紹介します。

日本で手に入りやすいベトナム産の魚

実は、日本のスーパーでもベトナムの魚は売られています。最もポピュラーなのが、冷凍食品コーナーにある白身魚のフライやパンガシウスのフィレです。これらはベトナムから輸入されたものが多く、クセがないため和洋中どんな料理にも使えます。

ベトナムの魚料理を日本で再現するコツ

日本で手に入る魚、例えばサバやタラ、ナマズなどを使っても、ベトナム風の味付けは再現可能です。ポイントはヌックマムと砂糖、できればキビ砂糖やココナッツシュガーのバランスです。そして仕上げにパクチーやディルを添えるだけで、一気に現地の味に近づきます。特にサバのトマト煮や白身魚の甘辛煮は、日本の家庭にある調味料とヌックマムで簡単に作れるので、ぜひ試してみてください。

【まとめ】ベトナムで魚料理を楽しむためのポイント整理

ベトナムは淡水魚と海水魚の両方が楽しめる魚大国であり、その調理法も多岐にわたります。

味付けはヌックマムと香草が決め手となり、地域によって甘さや辛さが異なるのも魅力の一つです。

初心者は、揚げ魚や魚のすり身麺から試すと食べやすいでしょう。

また、土鍋煮や酸っぱいスープはベトナムの食卓を感じられる必食の定番メニューです。

泥臭そう、骨が多そうという先入観を捨てて、ぜひ現地でベトナムの魚料理に挑戦してみてください。

ご飯に合う甘辛い味付けや、ハーブ香る爽やかなスープの虜になること間違いなしです。