ベトナムの揚げ春巻き、チャーゾー(Chả giò)。
北部ではネムザン(Nem rán)とも呼ばれます。一口かじれば、サクッとした軽快な音の後に、豚肉やエビの旨味が詰まったジューシーな餡がじゅわっと溢れ出す──。その香ばしい魅力は、活気あふれる屋台から温かい家庭の食卓まで、ベトナム全土で深く愛される国民食です。
この記事では、「チャーゾーってそもそも何?」という基本から、家庭で本格的な味を再現するためのレシピ、失敗しない巻き方と揚げ方の秘訣、味わいを広げる3種のタレの使い分け、そして便利な保存方法まで、知りたい情報を一気通貫でご紹介します。
チャーゾーとは?
チャーゾーは、豚ひき肉やエビ、野菜などをライスペーパーで包んで揚げた、ベトナムを代表する料理の一つです。
しかし、その呼び名や特徴は地域によって少しずつ異なります。南部では一般的に「Chả giò(チャーゾー)」、対して北部ハノイ周辺では「Nem rán(ネムザン)」と呼ばれます。旅先で注文する際は、この違いを覚えておくとスムーズでしょう。
皮には主に米粉から作られたライスペーパー(bánh tráng)が使われ、これが日本の春巻き(小麦粉の皮)とは異なる、独特のカリッ、サクッとした軽い食感を生み出します。
特に南部では、網目状でよりクリスピーに仕上がる「bánh tráng rế(バインチャンゼー)」を使ったチャーゾーも人気を博しています。
食べ方は実に多彩で、そのまま味わうのはもちろん、レタスやミント、しそといったたっぷりのハーブで包み、甘酸っぱく少しピリ辛のタレ「ヌクチャム(nước chấm)」にディップするのが定番のスタイルです。さらに、米麺(ブン)の上にチャーゾーと野菜を乗せた「ブン・チャーゾー(bún chả giò)」は、一皿で食事として完結する人気のメニューとなっています。
基本の具材構成と代替アイデア
チャーゾーの魅力は、具材の組み合わせによって生まれる複雑な味わいと食感にあります。
王道の構成は、旨味の核となる豚ひき肉とむきエビ、そして食感のアクセントになる緑豆春雨やきくらげです。
さらに、タロイモやじゃがいも、人参、玉ねぎといった野菜が加わることで、風味に深みが増します。
これらを卵でつなぎ、ベトナム料理の魂ともいえるヌクマム(魚醤)と砂糖、胡椒、にんにくで調味するのが基本形です。
もちろん、アレンジは自由自在。例えば、鶏ひき肉や豆腐、きのこ類を使えば軽やかな仕上がりに、カニのほぐし身を加えれば一気にリッチで豪華な味わいへと変化します。
アレルギーにも配慮が可能で、甲殻類が苦手な方はエビの代わりに鯛などの白身魚を叩いて加えると良いでしょう。
また、グルテンフリーを意識するなら、皮は必ず米粉100%のライスペーパーを選ぶことが大切です。
チャーゾー作りに必要な道具
本格的なチャーゾー作りといっても、特別な調理器具は必要ありません。
ご家庭にあるもので十分に美味しい一皿を完成させることができます。
揚げ物には、油の温度管理がしやすい温度計付きの鍋が理想的ですが、もちろん深めのフライパンでも代用可能です。
揚げたチャーゾーの油を切るためには、バットとキッチンペーパーが欠かせません。
また、ライスペーパーを均一に湿らせる際には刷毛があると便利ですが、なければ指で優しく濡らしても問題ありません。
そして、熱い油の中でチャーゾーを返したり取り出したりするために、菜箸やトングを用意しておきましょう。
本格チャーゾーのレシピ(12本分)
それでは、ベトナムの家庭の味を目指して、本格的なチャーゾー作りに挑戦しましょう。
約12本分のレシピをご紹介します。
まず、主役となる豚ひき肉300gと、食感のアクセントになるむきエビ120gを準備します。
風味と食感を豊かにするために、乾燥状態で40gの緑豆春雨と5gのきくらげ、さらに人参50g、玉ねぎ60gも用意してください。
これらを結着させるための卵を1個、そして味の決め手となる調味料として、ヌクマム大さじ1、砂糖小さじ1、黒胡椒少々、すりおろしにんにく小さじ1を揃えます。
皮はライスペーパーを12枚、揚げ油は適量を使います。
下準備として、春雨ときくらげはぬるま湯で戻しておきます。
春雨は水気を切って2〜3cmの長さに、きくらげは石づきを取り除いてから細かくみじん切りにしてください。
エビは背わたを取ってから、食感が残るように粗みじんにします。人参と玉ねぎも、それぞれみじん切りにしておきましょう。
調理の手順は、まずボウルにライスペーパーと揚げ油以外の全ての材料を入れ、粘りが出るまで手でしっかりと練り混ぜることから始まります。
もし野菜から出た水分で餡が緩く感じたら、片栗粉小さじ1(分量外)を加えて固さを調整してください。
次に、35〜40℃のぬるま湯を張ったバットにライスペーパーをサッとくぐらせ、固さが少し残る程度で引き上げます。
湿らせた皮の手前側に具材を棒状に置き、手前から一巻きしたら左右の端を内側に折り込み、空気を抜きながら最後までキュッと固めに巻き上げます。
そして、美味しさの秘訣である二度揚げに移ります。一度目は160℃の低温で4〜5分、じっくりと内部に火を通します。
一度取り出して2分ほど休ませた後、今度は油の温度を180℃に上げ、きつね色になるまで1〜2分揚げて表面をカリッとさせます。
揚がったチャーゾーはバットの上で立てて油を切り、蒸気を逃がしてサクサク感を保つのがコツです。熱々のうちに召し上がれ。
失敗しない巻き方&揚げのコツ
チャーゾー作りでつまずきがちなトラブルには、それぞれ原因と対策があります。
揚げている最中に皮が破裂してしまうのは、主に具材の水分が多すぎることが原因です。
対策として、玉ねぎなどの野菜は刻んだ後に軽く塩もみし、出てきた水分をしっかりと絞ってから使いましょう。
油が泡だらけになったり黒っぽく焦げたりするのは、油の酸化や高温での揚げすぎが考えられます。
新しい油を使い、低温で火を通し高温で色付けするという二度揚げの基本を守ることが、焦げ付きを防ぐ鍵です。
皮が白っぽいままだったり、硬い食感に仕上がってしまったりする場合は、巻き方が緩いか油温が低い可能性があります。
空気を抜きながらきつく巻き、一度に揚げる量を減らして油温が下がらないよう注意してください。
最後に、揚げたてはサクサクなのにすぐにベタついてしまうという悩みは、揚げた後の蒸気が原因です。
チャーゾー同士が重ならないよう、必ず立てて置くことで湯気を逃がし、カリッとした食感を長く保つことができます。
おすすめのタレ3種と使い分け
チャーゾーの美味しさを決定づけるのが、個性豊かなタレです。まず絶対に試していただきたいのが、基本であり万能な「ヌクチャム」です。
これは、ヌクマム、砂糖、ライム果汁、水を1:1:1:2の割合で混ぜ、お好みでおろしにんにくと刻んだ赤唐辛子を加えたもの。
さっぱりとした甘酸っぱさが、チャーゾーの油分を爽やかにしてくれます。次に、濃厚な味わいで辛味が苦手な方やお子様にも人気の「ピーナッツ味噌ダレ」。
味噌、ピーナッツバター、水、砂糖を2:2:3:1の割合で混ぜ、隠し味にヌクマムを数滴加えます。香ばしくてコクのある、まろやかな味わいが特徴です。
そして、より本格的な南部風の味を求めるなら「ヌクマム・メー」がおすすめです。
タマリンドペースト、砂糖、ヌクマム、水を1:1:1:2の割合で混ぜて少し煮詰めると、フルーティーで奥深い酸味が生まれます。
軽い具材にはヌクチャム、コクの強い具材にはヌクマム・メー、そして家族で楽しむならピーナッツ味噌ダレというように、シーンに合わせて使い分ければ、楽しみ方が何倍にも広がります。
美味しさを引き立てる盛り付け・食べ方
チャーゾーは、たっぷりの野菜やハーブと共にいただくことで、その真価を発揮します。
お皿には、みずみずしいレタスや清涼感あふれるミント、独特の香りが魅力のしそなどをたっぷりと盛り付けましょう。
きゅうりや青マンゴーの細切りを添えるのも良いでしょう。
食べ方は、まず手のひらにレタスを広げ、その上に熱々のチャーゾーとお好みのハーブ、野菜を乗せます。全体をくるりと包み、用意したタレにたっぷりとディップしてから口に運んでください。
肉の旨味、ハーブの清涼感、野菜の瑞々しさが渾然一体となり、最高の味わいを生み出します。
また、茹でた米麺(ブン)と刻んだ野菜、チャーゾーを器に盛り付け、上からヌクチャムをかければ、ごちそう麺料理「ブン・チャーゾー」としても楽しめます。
ヘルシー調理:オーブン/エアフライヤー版
「揚げ物のカロリーが気になる」という方でも、調理法を工夫すればヘルシーにチャーゾーを楽しむことができます。
オーブンを使う場合は、天板にクッキングシートを敷いてチャーゾーを並べ、刷毛で表面に薄く油を塗ります。その後、200℃に予熱したオーブンで10分焼き、裏返してさらに8分ほど加熱してください。エアフライヤーであれば、バスケットにチャーゾーを並べて霧吹きなどで軽く油を吹きかけ、180℃で8分加熱後、裏返してさらに5分ほど加熱します。どちらの方法でも、揚げ油を大幅にカットしながら、カリッとした食感に近い仕上がりを実現できます。
作り置き・冷凍・再加熱の方法
多めに作ってストックしておけば、忙しい日の食卓やお弁当にも大活躍します。
生のまま冷凍する場合は、巻いたチャーゾーの表面に片栗粉を薄くまぶしてくっつきを防ぎ、クッキングシートを敷いたバットに並べて冷凍します。
凍結したらジッパー付き保存袋に移して保管し、揚げる際は凍ったまま160℃の油で通常より長めに揚げてください。
揚げてから保存する場合は、粗熱を取ってから急速冷凍します。再加熱する際は、210℃に予熱したオーブンやトースターで5〜7分温めると、カリッとした食感が蘇ります。
保存期間の目安は、冷蔵で1日、冷凍であれば約1ヶ月です。
栄養・カロリーの目安
チャーゾー1本あたりのカロリーは、具材の比率や油の吸収量によって変動しますが、およそ90〜120kcalが目安です。
栄養素としては、たんぱく質が5〜7g、脂質が6〜8g程度含まれます。ポイントは、レタスやハーブといった野菜と一緒に食べることです。
これにより食物繊維を豊富に摂取でき、満足感を高めながらカロリーの過剰摂取を自然と抑制することに繋がります。
美味しく、そして賢く食事に取り入れましょう。
ベトナム語の注文フレーズ
いつかベトナムを訪れた日のために、覚えておくと便利な現地の言葉をいくつかご紹介します。
チャーゾーを注文したい時は、「Cho tôi chả giò.(チョー トイ チャーゾー)」と伝えます。
「野菜を多めに」とお願いするなら「Thêm rau nhiều.(テム ザウ ニエウ)」、辛さを控えめにしたい場合は「Ít ớt.(イッ オッ)」と言いましょう。
そして、持ち帰りを希望する際は「Mang về.(マン ヴェー)」と伝えれば大丈夫です。
よくある質問
Q. 皮はライスペーパーと、日本の春巻きの皮(小麦粉)どちらが良い?
A. 本場の風味とサクッと軽い食感を楽しみたいなら、断然ライスペーパーがおすすめです。ただし、破れやすく扱いに慣れが必要です。日本の春巻きの皮は丈夫で成形しやすいため、初心者の方やお子様と一緒に作る場合はそちらから試すのも良いでしょう。ライスペーパーが破れるのが心配な場合は、二重にして巻くと失敗しにくくなります。
Q. 具に水を加えるレシピを見かけますが、必要ですか?
A. 水は不要です。野菜から出る水分と、つなぎの卵で十分なジューシーさが得られます。水を加えると餡が緩くなり、破裂の原因にもなります。
Q. 揚げる油は何が合いますか?
A. 香りにクセのない、菜種油や米油、サラダ油が適しています。オリーブオイルは香りが強いため、チャーゾー本来の風味を邪魔してしまう可能性があります。
Q. 子ども向けの味付けのポイントは?
A. 餡に加えるにんにくや胡椒を抜くか、控えめにしましょう。タレはヌクチャムの唐辛子を抜きにするか、甘くて香ばしい「ピーナッツ味噌ダレ」を添えるのがおすすめです。
まとめ:チャーゾーは奥の深いベトナム料理
ベトナムの揚げ春巻き「チャーゾー」は、巻きのタイトさ、そして「低温から高温」へと移行する二度揚げの技術、最後に味わいを決定づけるタレの選択が美味しさの決め手となります。
まずはこの記事で紹介した基本のレシピと万能タレ「ヌクチャム」で、誰もが納得する“正解の一口”を体験してみてください。
その美味しさに慣れたら、次は具材をアレンジしたり、タレを変えたりして、あなただけの最高のチャーゾーを見つける旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。
サクサクの皮から溢れ出す旨味は、きっとあなたを虜にするはずです。