ベトナム料理といえば、フォーや生春巻きを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、その食文化を支えている真の立役者は「野菜」と言っても過言ではありません。

ベトナムの食卓には、日本とはまた違った種類の野菜やハーブが所狭しと並び、その調理法も多彩です。

本記事では、ベトナムで親しまれている代表的な野菜やその特徴、そして現地ならではの美味しい食べ方について詳しく解説します。

ベトナムの野菜の特徴とは?日本との違いをまず押さえよう

ベトナムは国土が南北に長く、全体的に一年を通して温暖な気候に恵まれています。

そのため、野菜の生育に適しており、特に葉物野菜やハーブ類の種類が非常に豊富です。

現地の食堂や家庭の食卓を見ると、肉や魚のメイン料理と同等、あるいはそれ以上のボリュームで野菜が並んでいることに驚かされます。

ベトナムの野菜文化における最大の特徴は、「生の香草」と「軽く火を入れた野菜」が必ずセットのように食事に組み込まれている点です。

日本では季節ごとに旬の野菜を味わう楽しみがありますが、ベトナムでは常に青々とした野菜が大量に消費されます。

種類が豊富なだけでなく、香りや苦味といった個性が強い野菜が多いのも特徴で、それらを上手に組み合わせることで料理の完成度を高めています。

「ベトナムの野菜=香草(ハーブ)」というイメージの理由

多くの日本人が抱く「ベトナム料理は野菜たっぷり」というイメージは、おそらく香草(ハーブ)の存在によるものでしょう。フォーやブンといった麺料理、あるいは生春巻きやバインセオ(ベトナム風お好み焼き)を注文すると、必ずと言っていいほど山盛りのハーブが別皿で添えられてきます。

これには明確な理由があります。ベトナム料理は揚げ物や肉の脂を使うメニューも多いですが、香りの強いハーブを一緒に食べることで、口の中の油っぽさを中和し、肉や魚の臭みを消す役割を果たしているのです。単なる飾りではなく、料理を美味しく食べるための機能的な食材として、ハーブは欠かせない存在となっています。

市場で山盛りで売られる“青菜”文化

ハーブだけでなく、加熱調理用の青菜類も非常にポピュラーです。市場へ行くと、日本では見かけないような種類の青菜が山積みになって売られています。その代表格である空芯菜(ラウムオン)をはじめ、毎日の食卓にはニンニクで炒めた青菜や、スープに入った葉野菜が登場します。

ベトナム人は日本人に比べて、一食あたりに摂取する野菜の量が非常に多い傾向にあります。「野菜を副菜として少し添える」という感覚ではなく、「野菜をたっぷり食べるために食事をする」という意識に近いかもしれません。外食時であっても、意識的に青菜炒めやサラダを注文し、栄養バランスをとるのが現地のスタイルです。

ベトナムでよく食べられる代表的な野菜・ハーブ

それでは、具体的にどのような野菜がベトナムで親しまれているのでしょうか。ここでは旅行中によく目にする代表的な野菜やハーブを紹介します。

空芯菜(rau muống)――ベトナムの定番青菜

ベトナム野菜の王様とも言えるのが「空芯菜(ラウムオン)」です。茎の中が空洞になっているため火の通りが早く、シャキシャキとした茎の食感と、やわらかく味が染みやすい葉の部分の両方を楽しめます。

調理法としては「ニンニク炒め(ラウムオン・サオ・トイ)」が最もポピュラーで、どこの食堂に行っても必ずメニューにあるほどの国民食です。また、炒め物だけでなく、シンプルに茹でたものを特製のタレにつけて食べるスタイルも家庭では一般的です。

空心菜以外の炒め物向きの葉物野菜

空芯菜以外にも、炒め物に適した葉物野菜は数多く存在します。例えば「カイサン(cải xanh)」と呼ばれる、日本の青梗菜や小松菜に似たアブラナ科の野菜もよく食べられています。これらは少し苦味があるのが特徴で、ニンニク炒めにしたり、ひき肉と一緒にスープにしたりして食卓に上がります。ベトナムの市場ではこうした菜っ葉類が何種類も売られており、その日の気分や料理に合わせて使い分けられています。

ベトナム料理に欠かせない香草・ハーブ類(rau thơm)

ベトナム語で「ラウトム(rau thơm)」と呼ばれる香草類は、料理の味を決定づける重要な要素です。ミント、タイバジル、コリアンダー(パクチー)、レモングラス、ドクダミなどが代表的です。

これらは基本的に生のまま料理に添えられ、フォーのスープに浸したり、ブン(米麺)と一緒に混ぜたり、生春巻きのライスペーパーの中に具材と一緒に巻き込んだりして食べます。香りの強い野菜が苦手な日本人の方もいるかもしれませんが、少量ずつ試してみると、料理の味わいが立体的になることに気づくはずです。

バナナの花(hoa chuối)・青パパイヤ(đu đủ xanh)などのサラダ野菜

日本ではあまり馴染みがありませんが、バナナの花や熟す前の青パパイヤも、ベトナムでは立派な野菜として扱われます。これらは細切りにして、サラダ(ゴイ)に使われることがほとんどです。

バナナの花は少し渋みがあり、青パパイヤは大根のような淡白な味わいですが、どちらもシャキシャキとした独特の歯ごたえが魅力です。茹でた豚肉やエビ、ピーナッツなどと和えることで、食感の楽しい一品に仕上がります。

ゴーヤ(khổ qua)やヘチマなどの“日本でも見かける野菜”

ゴーヤ(ニガウリ)やヘチマなど、日本でも見かける野菜もベトナムでは一般的ですが、調理法には少し違いがあります。日本ではゴーヤといえばチャンプルーが定番ですが、ベトナムでは中をくり抜いてひき肉を詰め、スープ(カインチュアなど)にして煮込むのが定番です。

ヘチマも同様にスープの具材としてよく使われます。日本で見慣れた野菜であっても、現地の調理法を知ることで、新しい味わいを発見できるのがベトナム料理の面白いところです。

ベトナムの野菜の代表的な調理方法

食材の種類が分かったところで、次はそれらがどのように調理されているかを見ていきましょう。

ベトナムの家庭料理における野菜の扱いは、大きく分けて4つのパターンがあります。

ニンニク炒め(xào tỏi)――最もベーシックな野菜料理

最も基本的、かつ誰もが愛する調理法が「ニンニク炒め」です。空芯菜をはじめとする多くの葉物野菜がこのスタイルで調理されます。強火で熱した油にたっぷりの刻みニンニクを入れて香りを出し、野菜を一気に炒め合わせ、最後にヌックマム(魚醤)や塩で味を整えます。

家庭料理としてはもちろん、屋台やレストランで食事をする際も、まず一品目にこの「青菜炒め」を頼み、ビールのおつまみやご飯のおかずにするのがベトナム流です。

スープ(canh)として煮る

ベトナムの定食屋(コムビンザン)に行くと、必ず大きな鍋に入ったスープを見かけます。これは「カイン(canh)」と呼ばれる汁物で、肉や魚からとった出汁に野菜を入れた、あっさりとした味わいが特徴です。

使われる野菜は青菜、冬瓜、ゴーヤ、ヘチマ、空芯菜の茎など多岐にわたります。ベトナムの食事スタイルは、白いご飯にスープをかけながら食べることも多く、「ご飯+おかず+野菜スープ+野菜炒め」というセットが食卓の基本形となっています。

サラダ・和え物(gỏi)として生や半生で食べる

「ゴイ(gỏi)」と呼ばれるベトナム風サラダも人気です。青パパイヤ、バナナの花、キャベツ、ハスなどを千切りにし、ハーブ類や肉、魚介と組み合わせ、甘酸っぱいヌックマムベースのタレで和えます。

仕上げに砕いたピーナッツやフライドオニオンをトッピングするのが定番で、香ばしさと野菜の瑞々しさが絶妙にマッチします。日本のサラダとは異なり、ご飯のおかずとしても、お酒のつまみとしても成立するしっかりとした味付けが特徴です。

茹で野菜+つけダレで食べる

油を使わずにさっぱりと野菜を食べたい時に選ばれるのが「茹で野菜(ラウルオック)」です。空芯菜やキャベツ、オクラなどをシンプルに茹で、ヌックマムや腐乳、甘辛い味噌ダレなどにつけて食べます。素材の味をダイレクトに楽しめる調理法であり、胃腸を休めたい時やヘルシー志向の人々に好まれています。

漬け物・発酵野菜(dưa chua)

高菜のような葉物野菜や青パパイヤ、もやしなどを塩水や米のとぎ汁に漬けて発酵させた漬け物もよく食べられます。酸味が強く、日本の古漬けに近い味わいです。これは単体で食べるというよりも、角煮のような脂っこい肉料理の付け合わせとして添えられ、口の中をさっぱりさせる「口直し」としての役割を果たします。

地域別に見る「ベトナムの野菜の使い方」の違い

縦に長いベトナムでは、地域によって気候も異なり、それに伴って野菜の使い方も変わります。

北部(ハノイ周辺)の野菜料理

四季が比較的はっきりしている北部の料理は、素材の味を活かしたシンプルな調理法が好まれます。野菜料理もニンニク炒めやあっさりとしたスープが中心で、味付けは塩や少量のヌックマムなどで控えめに行われます。辛味もそれほど強くなく、日本人にとって馴染みやすい優しい味わいが多いのが特徴です。

中部(ダナン・フエなど)の野菜料理

中部の料理は、唐辛子を使った辛味と、はっきりとした塩味が特徴です。ブンボーフエなどの名物麺料理には、大量のハーブやバナナの花が添えられますが、これは濃厚で辛いスープとのバランスを取るためでもあります。小皿料理が多く、野菜も発酵させたり、漬物にしたりといった保存食的な使い方もよく見られます。

南部(ホーチミン・メコンデルタ)の野菜料理

一年中常夏の南部は、メコンデルタの肥沃な大地があり、野菜や果物の種類が圧倒的に豊富です。料理の味付けは甘めが好まれ、ココナッツミルクを使うこともあります。食卓に並ぶハーブや生野菜のボリュームも国内で最も多く、多種多様な葉野菜をカゴいっぱいに盛って提供する店も珍しくありません。

現地で「ベトナムの野菜」を楽しむためのポイント

ベトナム旅行中に現地の美味しい野菜料理を堪能するための、ちょっとしたコツを紹介します。

ローカル食堂で野菜料理を見つけるコツ

メニューを見て何が野菜料理か分からない時は、キーワードを探しましょう。「Rau muống xào tỏi(空芯菜のニンニク炒め)」「Rau luộc(茹で野菜)」「Canh(スープ)」といった単語を覚えておくと便利です。肉料理を一品頼んだら、必ず野菜炒めを一品追加注文すると、栄養バランスも良く、現地らしい食事スタイルを楽しめます。

ベトナム語で使う野菜の名前・フレーズ

簡単なベトナム語を知っていると、よりスムーズに注文できます。「Rau(ザウ/ラウ)」が野菜全般を指し、「Rau sống(ザウソン)」が生野菜やハーブの盛り合わせを指します。「野菜を多めにしてください」と伝えたい時はジェスチャーを交えたり、辛いのが苦手な場合は「辛さ控えめで」と伝えたりすることで、自分好みの味で野菜を楽しめます。

ローカル市場で野菜を買うときの注意点

もしキッチン付きの宿に泊まって自炊をする場合、野菜は朝の市場で買うのがおすすめです。朝採れの新鮮な野菜が豊富に並んでいます。ただし、生食する場合は衛生面に注意が必要です。泥や汚れをしっかり洗い流すのはもちろん、旅行者の場合は体調を考慮して、加熱調理向きの野菜を選ぶか、生野菜専用の洗浄剤を使用すると安心です。

日本でベトナムの野菜料理を再現するコツ

帰国後、ベトナムの味が恋しくなった時に、日本のスーパーで手に入る食材で再現するポイントを紹介します。

日本で手に入りやすい代用野菜

空芯菜は夏場なら日本のスーパーでも見かけますが、手に入らない場合は「ほうれん草」「小松菜」「水菜」などで代用可能です。特に小松菜は茎の食感がしっかりしており、ニンニク炒めにすると雰囲気が近くなります。また、バナナの花や青パパイヤがない場合は、キャベツの千切りや大根、人参を使うことで、食感の楽しいサラダを作ることができます。

ベトナム風ニンニク炒めの作り方

日本のフライパンで美味しいベトナム風炒めを作るコツは、「強火でサッと」仕上げることです。フライパンに多めの油と刻みニンニクを入れて弱火でじっくり香りを出し、その後火を強めて野菜を投入します。仕上げに少量のヌックマム(なければナンプラー)を鍋肌から回し入れるだけで、一気に現地の香りが立ち上ります。炒めすぎると水分が出てしまうので、手早く調理するのがポイントです。

ベトナム風サラダ(ゴイ)の基本

「ゴイ」の基本構造は、千切り野菜+ハーブ+ドレッシング+トッピングです。日本の調味料で作るなら、砂糖、酢、醤油(またはナンプラー)を混ぜて甘酸っぱいタレを作りましょう。ここに砕いたピーナッツを加えるだけで、一気にベトナム風の「なんちゃってゴイ」が完成します。鶏のささみや茹でエビを加えると、立派なおかずになります。

ベトナムの野菜を食べるときの注意点

最後に、楽しく食事をするための注意点もお伝えします。

生野菜・ハーブを食べるときの衛生面

ベトナムの水道水は飲用には適していません。そのため、屋台などで出される生野菜やハーブは、衛生状態が気になる場合は避けるか、信頼できそうな店を選ぶのが無難です。特にお腹を壊しやすい方や、到着直後の旅行者は、加熱された野菜料理(炒め物やスープ)を中心に選ぶと安心です。

香りの強さ・苦味への慣れ方

ベトナムのハーブには独特の香りや苦味を持つものがあります。最初から山盛りで食べるのではなく、少量ずつちぎって料理に合わせてみましょう。苦味やクセのある野菜は、味の濃い肉料理と一緒に口に入れると、驚くほど食べやすくなり、その相性の良さに気づくことができます。

アレルギーや体質への配慮

稀にですが、特定のハーブに対してアレルギー反応が出る方もいます。初めて食べる野菜やハーブは、様子を見ながら少量ずつ食べるようにしてください。また、普段野菜をあまり食べない人が急に大量の繊維質を摂るとお腹が緩くなることもあるので、スープや温野菜から徐々に慣らしていくのがおすすめです。

まとめ:ベトナムの野菜を知ると、現地ごはんがもっと楽しくなる

ベトナムの野菜文化は、空芯菜やハーブ、青パパイヤなど、日本とは異なる魅力に溢れています。

調理法も「ニンニク炒め」「スープ」「サラダ」「茹で野菜」とバリエーション豊かで、どれも日本人の口に合うヘルシーなものばかりです。

旅行中は「肉料理+野菜料理+スープ」の組み合わせを意識することで、胃腸への負担を減らしつつ、現地の食文化を深く味わうことができます。

また、日本に帰ってからも身近な野菜でベトナム風のおかずを再現することは十分に可能です。ぜひ、野菜を通じてベトナム料理の奥深い世界を楽しんでみてください。