ベトナムの首都ハノイを訪れた際、欠かせない楽しみのひとつが「ビール」です。

蒸し暑い気候の中で飲む冷えたビールは格別の美味しさがあり、旅行者にとっても現地の食文化を知る絶好の入り口となります。

ハノイには地元で愛され続けるローカル銘柄から、独特のスタイルを持つ生ビール、そして近年流行のクラフトビールまで、多種多様な選択肢が存在します。

本記事では、ハノイで必ず飲んでおきたい有名なビール銘柄やその味の特徴、気になる値段の相場について詳しく解説していきます。

ハノイのビール文化とは?「ハノイ ビール」を理解するための基礎知識

ベトナムは東南アジアの中でも特にビール消費量が多い国として知られており、食事の席には必ずと言っていいほどビールが登場します。

中でも首都ハノイは、北部独自の「ビアホイ(生ビール)文化」が根付いていることで有名です。

昼間から路上の低い椅子に座り、ジョッキを傾けて談笑する人々の姿は、ハノイを象徴する風景の一つと言えるでしょう。

ベトナムビールの基本的なスタイルは、一年を通して高温多湿な気候に合わせて、軽めでさっぱりとした喉越し重視のラガータイプが主流です。

アルコール度数は4〜5%前後のものが多く、日本のビールのような重厚な苦味よりも、ゴクゴクと飲める爽快感が好まれます。

南部ホーチミンでは氷を入れて飲む文化がより強い傾向にありますが、四季のあるハノイでは季節や店によって楽しみ方も少し異なり、それぞれの地域性が出ているのも面白いポイントです。

ハノイ名物「ビアホイ(Bia Hơi)」とは?

ハノイのビール文化を語る上で外せないのが「ビアホイ」です。これは防腐剤を使わずにその日作られたばかりのフレッシュな生ビールのことで、主にタンクから直接注がれる大ジョッキ(マグ)スタイルで提供されます。保存がきかないため「その場ですぐに飲み切る」ことが前提となっており、味は非常に軽く、アルコール度数も低めに設定されていることが一般的です。

ビアホイの最大の特徴は、その安さと手軽さにあります。水やお茶代わりと言っても過言ではないほどの低価格で提供されており、軽い口当たりゆえに何杯でも飲めてしまいます。炭酸もそれほどきつくないため、現地の料理をつまみながら会話を楽しんでいると、ついつい飲みすぎてしまうことも珍しくありません。ハノイ市民の生活に密着した、世界でも類を見ないユニークなビール文化です。

瓶ビール・缶ビール・クラフトビールの3タイプ

ハノイで楽しめるビールは大きく分けて3つのタイプがあります。一つ目は、スーパーやコンビニ、一般の食堂で最も手軽に手に入るローカル銘柄の瓶ビールや缶ビールです。二つ目は先述した、ハノイならではの文化体験ができるビアホイ。そして三つ目が、近年急速に店舗数を増やしているクラフトビールです。

特に最近では、欧米の醸造技術を取り入れたハノイ発のクラフトビールバーが観光客や現地の若者に人気を博していますが、やはり基本となるのは長年愛されているローカル銘柄です。本記事では、旅行者がまず押さえておくべき「①ローカル定番銘柄」「②ハノイらしいビアホイ」「③注目のクラフト系」という3つの視点から、ハノイのビール事情を深掘りしていきます。

ハノイで有名なローカルビール銘柄5選① ハノイビール(Bia Hà Nội/Habeco)

その名の通り、ハノイを代表する最もポピュラーなローカルブランドです。金色のラベルが目印で、ハノイ市内のどの食堂に行っても置いてあると言っても過言ではありません。国営企業であるHABECO(ハベコ)社が製造しており、地元の人々にとっての「いつもの味」です。

味の特徴は、非常に軽やかでさっぱりとしており、苦味は控えめです。炭酸が強めに効いているため、脂っこい料理や味の濃いベトナム料理と一緒に流し込むのに最適です。ローカル食堂やビアホイで「とりあえず一杯」と頼むなら、まずはこのハノイビールから始めるのが王道でしょう。値段は非常にリーズナブルで、ローカル食堂では日本円で百数十円程度、コンビニやスーパーで缶や瓶を買えばさらに安く手に入ります。

公式HP: https://www.habeco.com.vn/

ハノイで有名なローカルビール銘柄5選② チュックバク(Trúc Bạch)

「チュックバク」は、ハノイビールと同じHABECO社が製造している銘柄ですが、よりランクの高いプレミアムラインという位置づけになります。

ハノイにある有名な湖「チュックバク湖」から名付けられており、高級感のあるデザインが特徴です。

通常のハノイビールと比べると、麦芽のコクや香りがしっかりと感じられ、アルコール度数もやや高めです。

「薄いビールは物足りない」と感じるビール好きの方には、こちらがおすすめです。

値段設定は一般的なローカルビールよりも少し高く設定されており、大衆食堂よりも少し良いレストランやバーのメニューで見かけることが多い銘柄です。

ハノイで有名なローカルビール銘柄5選③ ハリダ(Halida)

「ハリダ」もベトナム北部でよく見かけるローカルブランドの一つです。象のマークが描かれたラベルが印象的で、デンマークのカールスバーグ社の技術提携を受けていることでも知られています。

味はクセのないさっぱりとしたラガータイプで、苦味と酸味のバランスが良く、非常に飲みやすい仕上がりになっています。暑い日の昼下がりに喉を潤すのにぴったりの一本です。値段はハノイビールと同程度か、店によってはさらに安く提供されていることもあり、コストパフォーマンスに優れた日常的なビールとして親しまれています。

ハノイで有名なローカルビール銘柄5選④ サイゴンビール(Bia Sài Gòn)

名前の通り本来は南部ホーチミン(旧サイゴン)発祥のブランドですが、現在ではベトナム全土で流通しており、ハノイでも非常によく飲まれている国民的銘柄です。

「サイゴン・ラガー(緑ラベル)」や「サイゴン・スペシャル(緑ボトル)」、「サイゴン・エクスポート(赤ラベル)」などの種類があります。

全体的にキレがあり、爽快な飲み口が特徴です。特に緑のボトルの「スペシャル」は麦芽100%で作られており、しっかりとした味わいを楽しめます。

ハノイビールと並んでどこでも手に入りやすく、値段も同程度から少し高い程度です。

高級レストランやホテルのバーでは、輸入ビールと並んでラインナップされていることもよくあります。

ハノイで有名なローカルビール銘柄5選⑤ 333(バーバーバー)

ベトナム全土のコンビニやスーパーで山積みされているのを見かける、缶ビールの代名詞的存在が「333(バーバーバー)」です。

数字の3はベトナムでは縁起が悪いとされることもありますが、足して9になることから「幸運」を意味するブランドとして定着しています。

味は軽さの中に少し独特の麦芽感やスパイシーさを感じさせるバランス型で、東南アジアのビールらしい風味を持っています。

レストランで注文するというよりは、部屋飲み用や手軽な食事のお供として選ばれることが多いです。

スーパーでの価格も非常に安く、サイゴンビールと近い価格帯で購入できるため、旅行中の晩酌用としても重宝します。

公式HP: https://www.sabeco.com.vn/

ハノイの名物「ビアホイ」をもっと楽しむ

瓶や缶のビールも美味しいですが、ハノイに来たからには「ビアホイ」の体験は外せません。

ここでは、ビアホイをより深く楽しむためのポイントを紹介します。

ビアホイハノイ(Bia Hơi Hà Nội)とは?

街中の看板に「Bia Hơi Hà Nội」と書かれている店は、毎朝工場から運ばれてくる銀色のタンク(大樽)から注ぐフレッシュな生ビールを提供しています。ビアホイは保存料を使っていないため賞味期限が非常に短く、その日のうちに売り切るのが鉄則です。そのため、いつでも新鮮な味を楽しむことができます。

一般的なビールに比べてアルコール度数が3〜4%程度と低く、炭酸も穏やかです。味は非常にライトで、水のようにゴクゴク飲めるのが特徴です。夕方になると仕事を終えた地元の人々が続々と集まり、一日の疲れを癒やす「社交場」としての役割も果たしています。

ビアホイの値段・雰囲気

ビアホイの最大の魅力はその圧倒的な安さにあります。店にもよりますが、ジョッキ1杯の価格は缶ビールよりもはるかに安く、日本円で数十円程度で飲める場所も珍しくありません。この安さが、大勢で集まって何杯もおかわりをするスタイルを支えています。

店先や歩道に並べられた低いプラスチックの椅子とテーブルに座り、オープンエアの開放的な空間でワイワイと飲むのがビアホイスタイルです。ハノイ旧市街の「ターヒエン通り(Ta Hien Street)」などはビアホイ交差点として有名で、外国人観光客も多く、初心者でも入りやすい雰囲気があります。また、タイホー(西湖)周辺などにも落ち着いて飲める店が点在しています。

おつまみ(おかず)と一緒に楽しむスタイル

ビアホイではビール単体で飲むことは少なく、必ずと言っていいほどおつまみ(モイ/Mồi)と一緒に楽しみます。定番のおつまみには、揚げ春巻き(ネムザン)、豚肉の発酵ソーセージ(ネムチュア)、空芯菜の炒め物、茹でた落花生、豆腐揚げ(ダウフ・マムトム)などがあります。

また、タニシなどの貝料理をつまみながら飲むのもハノイ流です。単なる飲み会というよりは、「ビール+豊富なおかず」で食事を兼ねて長時間楽しむのが現地の文化です。安くて美味しい小皿料理をテーブルいっぱいに並べて、仲間とシェアしながら飲むのがビアホイの醍醐味と言えるでしょう。

ハノイで注目のクラフトビール・地ビール

伝統的なローカルビールだけでなく、近年ハノイでは高品質なクラフトビール(地ビール)のブームが到来しています。

ハノイ発クラフトビールの特徴

ハノイのクラフトビールシーンは非常に活気があり、IPA(インディア・ペールエール)やスタウト、ウィートエールなど、世界的なトレンドを押さえた多様なスタイルのビールが醸造されています。欧米出身の醸造家が手掛けているケースも多く、本格的な味わいが楽しめます。

さらに面白いのが、ベトナムならではの素材を使ったビールです。ドラゴンフルーツやパッションフルーツなどの南国フルーツ、ベトナム産のコーヒーやカカオ、さらにはジャスミンライスやフォーのスパイスを使用したユニークな銘柄も登場しています。これらは他国ではなかなか味わえない、ハノイならではの特別な一杯となるでしょう。

クラフトビールバー/ブリュワリーの楽しみ方

ハノイ市内には、醸造所を併設したブリュワリーレストランや、各地のクラフトビールを取り揃えたタップルームが増えています。価格帯はローカルビールに比べると数倍高く、日本で飲むクラフトビールや輸入ビールと同水準の設定になりますが、その分クオリティは保証されています。

多くの店では、数種類のビールを少量ずつ試せる「テイスティングセット(飲み比べセット)」を用意しています。自分の好みの味を見つけたい時や、いろいろな種類を少しずつ楽しみたい時に最適です。雑多で賑やかなビアホイとは対照的に、おしゃれで落ち着いた空間でじっくりと味わうことができるため、その日の気分に合わせて使い分けるのがおすすめです。

ハノイのビールの「味の特徴」を日本人目線で解説

日本もビール大国ですが、ハノイのビールは日本のそれとは少し違った特徴を持っています。

日本人の味覚から見たハノイのビールの傾向を整理してみましょう。

日本のビールとの共通点・違い

共通点としては、日本と同じく「ラガータイプ(ピルスナー)」が主流であることです。冷たく冷やして喉越しを楽しむという基本的な飲み方は変わらないため、日本人にとっても非常に馴染みやすいと言えます。

一方で大きな違いは、その「軽さ」にあります。日本のビールがコクやキレ、ホップの苦味を重視しているのに対し、ハノイのローカルビールは全体的に味が薄く、水っぽく感じられることがあります。これは高温多湿な気候で水分補給のように飲むことを想定しているためで、苦味よりも「スッキリとした飲みやすさ」に振っている銘柄が多いためです。

「ビールだけ」より「料理と一緒」が前提の味設計

ハノイのビールが軽めに作られているもう一つの理由は、料理との相性にあります。ベトナム料理はヌックマム(魚醤)やハーブ、スパイスを使った、塩味やうま味の強い料理が多いです。そうした味のしっかりした料理の口直しとして、さっぱりとしたビールが最適化されているのです。

また、暑い気候の中で汗をかきながら大量に飲むことを前提にしているため、アルコール度数が高すぎたり味が濃すぎたりすると、すぐに飲み疲れてしまいます。最初は「薄いかな?」と感じるかもしれませんが、現地の気候の中で現地の料理と一緒に食べると、そのバランスの良さに納得できるはずです。

好み別のおすすめ銘柄

結局どれを選べばいいか迷った場合は、自分の好みに合わせて選んでみてください。日本の発泡酒やライトなビールが好きで、とにかくスッキリ飲みたい方は「ハノイビール」「333」や「ビアホイ」がおすすめです。

一方で、ある程度の飲みごたえやコクが欲しい方は、プレミアムラインの「チュックバク」や「サイゴン・スペシャル」を選ぶと良いでしょう。そして、個性的な香りや強い苦味を楽しみたい生粋のビール党の方は、迷わずハノイ市内の「クラフトビールバー」へ足を運ぶのが正解です。

ハノイでビールを飲むときの値段相場まとめ

旅行の予算を立てる際、ビールの値段は気になるところです。

場所によって価格は大きく異なるため、大まかな相場を知っておくと安心です。

ローカル食堂・ビアホイでの価格

最も安くビールを楽しめるのが、地元の人向けの大衆食堂や路上のビアホイ店です。ここでは生ビール(ビアホイ)が、水よりも安いような驚きの価格で提供されています。瓶ビール(ハノイビールやサイゴンビールなど)も非常にリーズナブルで、日本円に換算しても数百円でお釣りが来るレベルです。

同じローカル店でも、プラスチック椅子を並べただけの簡易的な店と、しっかりとした建物でエアコンが効いている小綺麗な店では、若干価格設定が異なりますが、それでも観光客にとっては十分に安い範囲内と言えます。

観光客向けレストラン・ホテルバー

外国人観光客を主なターゲットとしたレストランや、ホテルのバー、ルーフトップバーなどでは、ローカルビールの値段が市場価格の2〜3倍、あるいはそれ以上になることが一般的です。場所代や雰囲気代が含まれていると考えましょう。また、こうした店ではメニューの表示価格に加えて、サービス料や税金が別途加算されるケースが多いので、会計時に驚かないよう注意が必要です。

コンビニ・スーパーでの価格

部屋飲み用やお土産用に購入する場合は、コンビニやスーパーマーケットを利用するのが最もお得です。缶ビールや瓶ビール1本あたりの価格は非常に安く、数十円から百円程度で購入可能です。長期滞在する場合やグループ旅行の場合は、6缶パックやケース単位でまとめ買いをすると、単価がさらに割安になることもあります。

「ハノイ ビール」を楽しむときの注意点

最後に、ハノイで楽しく安全にビールを飲むために気をつけておきたいポイントをいくつか挙げます。

飲みすぎ・脱水・暑さに注意

ハノイのビールは口当たりが良く、アルコール度数も低めに感じられるため、気づかないうちに量を飲みすぎてしまうことがあります。しかし、ベトナムの暑さは想像以上に体力を消耗させます。アルコールの利尿作用と発汗によって脱水症状になりやすいため、ビールだけでなく水も一緒に注文して、こまめに水分補給をするように心がけましょう。また、塩辛いおつまみも脱水を加速させるので注意が必要です。

衛生面・氷の使い方

ローカルな食堂やビアホイでは、ビールがぬるくなるのを防ぐため、グラスに大きな氷を入れて飲むスタイルが一般的です。これを「ビア・ダ(氷入りビール)」と呼びます。現地の文化として楽しむのも良いですが、氷を作る水の状態がわからない場合や、お腹が弱い人は注意が必要です。衛生面が気になる場合は、「ノー・アイス(氷なし)」と伝えて、よく冷えた瓶ビールをそのまま飲むか、信頼できるレストランを選ぶようにしましょう。

治安・帰り道の安全

ハノイの交通事情は日本とは全く異なり、バイクや車が入り乱れています。酔った状態で徒歩でホテルまで帰るのは、足元がおぼつかず、交通事故のリスクも高まるため危険です。また、レンタルバイクなどを利用している場合、飲酒運転は法律で厳しく禁止されており、外国人であっても厳罰の対象となります。お酒を飲んだら必ずタクシーや、Grab(グラブ)などの配車アプリを利用して、安全に宿泊先まで戻るようにしてください。

まとめ:ハノイのビールを飲み比べて、お気に入りの一杯を見つけよう

ハノイのビールシーンは、古くから愛されるローカル銘柄から、活気あふれるビアホイ、そして最先端のクラフトビールまで、驚くほど多彩です。

それぞれの銘柄に個性があり、飲む場所や合わせる料理によってもその味わいは変化します。

「ビアホイで地元の人に混ざって飲む」「おしゃれなレストランでクラフトビールを味わう」「ホテルの部屋でスーパーで買った缶ビールを飲み比べる」など、楽しみ方は無限大です。

まずはハノイビールやビアホイといった王道の味から試し、自分の好みがわかってきたら、ぜひ新しい銘柄やスタイルにも挑戦してみてください。

きっと、あなたのハノイ旅行を彩る最高の一杯が見つかるはずです。