ベトナムの国民食であるバインミー。

サクサクのフランスパンにたっぷりの具材が挟まれたその美味しさは、一度食べると忘れられない魅力があります。

しかし、自宅で作ろうとしても「何かが違う」「あの現地の味が再現できない」と感じることはないでしょうか。

その味の決め手となっている重要な要素の一つが、独特の旨味と辛味を持つ「チリソース」です。

本記事では、バインミーに使われる本場のチリソースの特徴や定番ブランド、そして日本や現地での入手方法について詳しく解説します。

バインミーに欠かせない「チリソース」とは?基礎知識

ベトナムの食卓に欠かせない調味料であるチリソースは、ベトナム語で「tương ớt(トゥオン・オット)」と呼ばれます。

これは単なる辛味付けのための調味料ではなく、料理の味をまとめ上げる重要な役割を担っています。

バインミーに使われるチリソースには明確な特徴があり、一般的に甘みと辛味のバランスが良く、酸味は控えめで、とろりとした粘度があるのが一般的です。

特筆すべきは、しっかりとしたニンニクの風味が効いている点です。

このニンニクの香りと甘辛い濃厚なソースが、淡白なフランスパンと濃厚なパテ、そして野菜や肉などの具材を見事に繋ぎ合わせ、あの一体感を生み出しています。

日本でよく見かけるタイのスイートチリソースほど甘くなく、アメリカ発祥のシラチャーソースよりも旨味が強い、まさにベトナム料理のために作られた万能ソースと言えるでしょう。

ベトナム人はバインミーに何を塗っている?

現地のバインミー屋台を観察していると、パンに塗られる「醤(ジャン)」の層が複数あることに気づきます。基本的には、パンの断面にマーガリンやバターを塗り、その上にレバーパテ、マヨネーズ、そして隠し味としての醤油やマギーソースを垂らします。そこに最終的なアクセントとして加えられるのがチリソースです。この「パテ+マヨネーズ+チリソース」のコンボこそが、バインミーの王道の味を作り出しています。

辛さの好みは人それぞれであるため、お店によってはチリソースのみで辛さを出す場合もあれば、スライスした生の唐辛子を挟んで強烈な辛さを加える場合、あるいはその両方を使って激辛に仕上げる場合もあります。注文時に「辛くしますか?」と聞かれるのは、このチリソースと唐辛子の量を調整するためなのです。

ベトナムでバインミーに使われる定番チリソースブランド

ベトナム現地には数多くの調味料メーカーが存在しますが、バインミーのプロたちが愛用する定番のブランドがいくつかあります。

Cholimex(チョリメックス)のチリソース

ベトナムの街角にある屋台からチェーン店まで、最も幅広く使われているメジャーブランドの一つが「Cholimex(チョリメックス)」です。このブランドのチリソースは、甘さと辛さのバランスが絶妙で、日本人の味覚にも非常によく合います。ニンニクの香りがしっかりと感じられ、食欲をそそる香ばしさがあります。

また、適度な粘度があるため、パンに塗っても水分が染み込みすぎず、パンのサクサク感を損なわずに味を絡めることができます。価格が手頃で味が安定しており、スーパーマーケットなどで容易に入手できることから、多くのバインミー店主や家庭で選ばれている信頼のブランドです。

CHIN-SU(チンスー)のチリソース

「CHIN-SU(チンスー)」はベトナム全土で圧倒的な知名度を誇る国民的ブランドです。近年では日本の輸入食品店やベトナム料理店でも見かける機会が増えてきました。鮮やかなオレンジ色が特徴的で、チョリメックスと同様にニンニクの風味が効いていますが、商品ラインナップによっては辛さが際立つものや、より甘みが強いものなどバリエーションが豊富です。

バインミーには、とろみがあり旨味が強いスタンダードなタイプがよく合います。最近では「シラチャー風」や「超激辛」などのシリーズも展開されていますが、まずは基本のボトルを選ぶと現地の味に近づけるでしょう。

Má Hải(マーハイ)などバインミー専門店系ソース

大手メーカー品以外にも、人気のバインミーチェーンが自社開発したプライベートブランド(PB)のチリソースも存在します。例えば、さつま揚げバインミーで有名な「Bánh Mì Má Hải(バインミー・マーハイ)」などは、自社のバインミーに最適化された専用ソースを使用しています。

こうした専門店系のソースは、具材の味を邪魔しないよう甘めで軽やかな辛さに調整されていることが多く、業務用として大容量ボトルで流通しているケースも見られます。屋台やキッチンカーを運営するプロ向けに人気があり、特定の味が支持されています。

Nam Dương・Đầu Bếp・Triều Phátなど地域&業務用ブランド

さらにローカルな深掘りをすると、「Nam Dương(ナムズオン)」や「Đầu Bếp(ダウベップ)」といった、主に業務用として流通しているブランドも多くの屋台で愛用されています。また、地域ごとの特色もあり、例えばホイアン地方では「Ớt Tương Triều Phát(チエウファット)」のような、豆板醤にも似た独特のコクを持つ伝統的なチリソースが有名です。ホイアンのバインミーが他の地域とひと味違うと言われるのは、こうした地場のチリソースを使っていることも大きな理由の一つです。

ベトナム現地で「バインミー用チリソース」を買うには?

ベトナム旅行に行った際、現地の味を自宅に持ち帰りたいと考える方も多いでしょう。現地での賢い買い方を紹介します。

スーパーマーケット・コンビニでの探し方

最も手軽に購入できる場所は、Co.opmart、Big C(GO!)、Lotte Martなどの大手スーパーマーケットやコンビニエンスストアです。調味料売り場に行けば、壁一面に赤いボトルのチリソースが並んでいます。探す際は「Tương Ớt(トゥオン・オット)」という表記を目印にしてください。CholimexやCHIN-SUなどの主要ブランドなら必ず置いてあります。

売り場には、家庭用の小型ガラス瓶やプラスチックボトルだけでなく、飲食店向けの巨大な業務用ペットボトルも並んでいます。お土産用であれば、持ち運びやすく使い切りやすい250ml〜300ml程度の小型ボトルを選ぶのがおすすめです。

バインミー屋台・専門店でオリジナルソースを購入できる場合

もし街中で食べたバインミーの味が忘れられない場合は、そのお店でチリソースを売ってもらえないか聞いてみるのも一つの手です。一部の有名店やチェーン店では、卓上に置かれているオリジナルソースをボトル販売していることがあります。

店員さんに尋ねる際は、「Chị ơi, ở đây có bán tương ớt không?(お姉さん、ここでチリソースは売っていますか?)」と聞いてみましょう。メニューになくても、在庫があれば分けてくれる優しい店主も少なくありません。

お土産として持ち帰る際の注意点

チリソースをお土産にする際、最も気をつけなければならないのが飛行機の搭乗ルールです。チリソースは「液体物」として扱われるため、100mlを超える容器は機内への手荷物持ち込みが禁止されています。必ず受託手荷物(スーツケース)に入れてカウンターで預けるようにしてください。

また、パッキングの際は液漏れや破損に注意が必要です。ガラス瓶の場合は衣類で厳重に巻くか、緩衝材を使用しましょう。割れる心配が少ないプラスチックボトルの商品を選ぶのも賢い選択です。なお、肉製品を含まないチリソースであれば、基本的に日本への持ち込み検疫の対象外ですが、成分表示は念のため確認しておくと安心です。

日本で「バインミー チリソース」を手に入れる方法

現地に行けなくても、日本国内で本場のチリソースを入手することは十分に可能です。

ベトナムブランドのチリソースをそのまま買う

近年、日本におけるベトナム食材の流通網は飛躍的に拡大しています。CHIN-SUやCholimexといった有名ブランドのチリソースは、日本の輸入食品店やECサイトで容易に購入できるようになりました。

実店舗では、ベトナム人が多く住むエリアにあるアジア食材店はもちろん、カルディコーヒーファームや成城石井、業務スーパー、ドン・キホーテなどのエスニックコーナーに置かれていることがあります。確実に入手したい場合は、Amazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングなどで「チンスー チリソース」や「Cholimex チリソース」と検索すれば、数百円程度で見つけることができます。

代用に使えるチリソース&選び方

もしベトナムブランドのものが手に入らない場合は、他の調味料で代用することも可能です。最も近い代用品としては、アメリカ発祥のアジア系ホットソース「シラチャーソース」が挙げられます。ただし、シラチャーは酸味と辛味が強めな場合があるため、使用量を調整する必要があります。

また、タイのスイートチリソースも使えますが、甘みが強すぎる傾向があります。代用品を選ぶ際は、成分表を見て「にんにく」が含まれているか、そしてボトルを傾けた時にサラサラしすぎず、ある程度の「とろみ」があるかを確認すると、バインミーに適したソースに出会いやすくなります。

業務用サイズを探している場合

カフェやキッチンカーなどでバインミーを提供したいと考えている事業者の方は、一般的なスーパーではなく、業務用食材の通販サイトや輸入商社のカタログをチェックすることをおすすめします。「ベトナム ホットチリソース 業務用」「tương ớt 2kg」といったキーワードで検索すると、大容量のタンクやボトルを取り扱っている専門業者が見つかります。コストパフォーマンスが良く、現地の味を安定して提供できるのがメリットです。

バインミーに合うチリソースの選び方

数あるチリソースの中から、自分の作るバインミーに最適な一本を選ぶためのポイントを整理します。

辛さ・甘さ・にんにくのバランス

まず注目すべきは味のバランスです。辛さが苦手な方や子供も食べる場合は、甘みが強めの「スイートチリソース」に近いタイプやマイルドなものを選ぶと良いでしょう。一方で、チャーシューや揚げ物など脂っこい具材を挟む場合は、辛さがしっかりとしたタイプを選ぶと味が引き締まります。そして何より重要なのが「にんにく感」です。レバーパテやマヨネーズのこってり感に負けないよう、ニンニクの香りがしっかり効いているタイプを選ぶと、パンチのある本格的な味わいになります。

ソースタイプ vs オイル/ペーストタイプ

一般的にバインミーに使われるのは「ソースタイプ(Tương ớt)」ですが、変化球として「チリオイル・サテ(Sa tế)」を使う方法もあります。ソースタイプは仕上げに具材の上からかけるのが一般的ですが、サテと呼ばれるレモングラスや乾燥エビが入ったラー油のようなペーストは、パンの内側に薄く塗ってからトーストすることで真価を発揮します。これは「サテバインミー」などのメニューで使われる手法で、香ばしさを際立たせたい場合におすすめです。

日本人にとって食べやすい組み合わせ例

初めてバインミーを作る方や、現地のクセが強すぎるのが心配な方におすすめの組み合わせがあります。まずは「スイートチリソース+マヨネーズ」のブレンドです。これはエビマヨのような親しみやすい味になり、誰にでも好まれます。もう少しベトナム寄りにしたい場合は、「ベトナムチリソース+マヨネーズ」に、隠し味として少量の「ナンプラー(魚醤)」を垂らしてみてください。一気に現地の屋台の味に近づきます。辛いものが好きな方は、さらにフレッシュな青唐辛子のスライスを追加することで、刺激的なアクセントを楽しむことができます。

自宅で作る「バインミー用チリソース」簡単レシピ案

市販のソースだけでは物足りないという方は、少しの手間を加えて自家製の特製ソースを作ってみましょう。

市販チリソースにひと手間加えるアレンジ

手持ちのスイートチリソースやシラチャーソースをベースにして、より本格的な味に近づけることができます。小皿にソースを出し、そこにおろしニンニクをたっぷり加えます。さらに、コクを出すための砂糖少々と、酸味を加えるための酢を一滴、そして旨味の補強としてナンプラーを少し混ぜ合わせます。これをよく混ぜてからパンに塗るだけで、市販のソースが驚くほど風味豊かなバインミー専用ソースに変身します。

サテ風チリオイルでパンをカリッと香ばしく

屋台のような香ばしいバインミーを目指すなら、簡易的な「サテ(辛味オイル)」を作ってみましょう。みじん切りにしたニンニクと赤唐辛子を多めのサラダ油で弱火でじっくり炒め、香りが立ったら砂糖とヌックマムで味を調えます。このオイルをバゲットの内側に薄く塗ってからオーブントースターで焼くと、パン自体に旨味と辛味が染み込み、具材を挟む前から美味しい、プロ顔負けの土台が出来上がります。

まとめ:好みのチリソースでバインミーを“自分好みの一杯”に

バインミーの美味しさを左右するチリソースについて解説してきましたが、ベトナムにはCholimexやCHIN-SU、Má Hảiなど、それぞれの個性が光る多様なブランドが存在します。

幸いなことに、現在は日本にいながらにしてこれらの本場の味を手に入れることが容易になっています。

まずはアジア食材店や通販サイトで現地の定番ブランドを試してみるのが一番の近道ですが、手に入らない場合でも、身近な調味料をアレンジして自分だけのソースを作る楽しさがあります。

パン、パテ、野菜、そしてチリソース。この絶妙なバランスを自分好みに調整して、ぜひ自宅で最高の一杯を作り上げてみてください。