ベトナム米が業務スーパーで買える?くさいという噂について現地から解説
近年、日本のお米の価格高騰や品薄の影響もあり、業務スーパーやディスカウントストアで海外産のお米を見かける機会が増えてきました。
その中でも、特にリーズナブルな価格で販売されているのが「ベトナム産のお米」です。
しかし、インターネット上や口コミでは「ベトナム米はくさい」「独特のニオイがする」といった声を聞くこともあり、購入をためらっている方もいるかもしれません。
この記事では、ベトナム現地のお米事情に詳しい視点から、業務スーパーで売られているベトナム米の正体や、気になるニオイの原因、そして美味しく食べるためのコツについて詳しく解説します。
ベトナム米とは?業務スーパーで見かける“タイ米っぽいお米”の正体
業務スーパーなどで「ベトナム産」として販売されているお米の多くは、日本のお米とは品種が異なる「インディカ米」と呼ばれる長粒種です。
日本や韓国で一般的に食べられている「ジャポニカ米」が短くて丸みがあり、炊くと粘り気が出るのに対し、インディカ米は細長く、炊き上がりは粘りが少なくパラパラとした食感が特徴です。
見た目が似ていることから「タイ米」と一括りにされることも多いですが、ベトナムは世界有数の米輸出国であり、その生産量は非常に豊富です。
一口にベトナム米と言っても、現地では大きく分けて三つのタイプが存在します。
一つ目は日常的に食べられる安価なインディカ米、二つ目は「ジャスミンライス」に代表される香りの良い高級品種、そして三つ目は日本への輸出や現地の日本食レストラン向けに栽培されているジャポニカ米です。
業務スーパーで見かけるのは、主に一つ目の安価なタイプか、二つ目の香り米のいずれかであることが大半です。
ベトナム米=「安いだけ」ではない
「ベトナム米は安いから品質が悪い」と思われがちですが、必ずしもそうではありません。ベトナム現地では、市場で量り売りされる大衆的なお米から、贈答用にも使われるブランド化された高級フレグラント米(香り米)まで、価格帯には大きな幅があります。業務スーパーなどで安価に売られているものは、外食産業でのチャーハン用やカレー用など、大量調理やエスニック料理に適した品種が選ばれて輸入されている傾向にあります。そのため、日本のご飯のような「ふっくら・モチモチ・甘い」を期待して購入すると、ギャップを感じてしまうことがあります。
「ベトナム米はくさい?」という噂の正体を分解する
日本でしばしば耳にする「ベトナム米はくさい」という評判ですが、これにはいくつかの異なる要因が混ざり合っています。単純に「お米が腐っている」わけではなく、品種の特性や保管状況、炊き方の違いが「異臭」として捉えられているケースが多いのです。
① フレグラントライス特有の香りを「くさい」と感じるケース
最も多い誤解の一つが、香り米(フレグラントライス)特有の香りを「くさい」と感じてしまうパターンです。ベトナムやタイで高級とされるジャスミンライスなどは、炊き上がるとパンダンの葉やポップコーンのような甘く香ばしい香りが漂います。これは品種本来の「良い香り」なのですが、無臭に近い日本米に慣れ親しんでいる日本人にとっては、ご飯から何かしらの匂いがすること自体に違和感を覚え、それを「くさい」と表現してしまうことがあります。
② 古米・保管状態による酸化臭・倉庫臭
もう一つの原因として考えられるのが、お米の鮮度と保管状態です。お米は収穫後、時間が経つにつれて酸化し、いわゆる「古米臭」が出てきます。特に高温多湿な環境や、密閉されていない状態で長期間保管されると、ぬか部分が酸化して油っぽいニオイや、倉庫のカビっぽいニオイ(倉庫臭)が吸着してしまうことがあります。輸入米の場合、輸送や保管の期間が長くなることもあるため、管理状態が悪い商品に当たってしまうと、こうした不快なニオイを感じることがあります。
③ 研ぎ方・炊き方が合っていない
三つ目は、調理方法の問題です。インディカ米を日本米と同じ感覚で、力を入れて何度も研ぎ、たっぷりの水に長時間浸水させてから炊くと、お米が水を吸いすぎてベチャッとした仕上がりになりやすくなります。水分過多で煮崩れたインディカ米は、独特のヌカ臭さや穀物臭が強調されてしまうことがあり、これが「くさい」と感じる原因になることがあります。
ベトナム現地の“業務スーパー”で売られているベトナム米
ベトナム現地にも「MM Mega Market」のような、飲食店向けの卸売スーパーが存在します。そこでは日本同様、あるいはそれ以上に多種多様なベトナム米が販売されています。
業務用サイズとラインナップ
現地の業務用スーパーでは、10kgから25kg、時には50kgといった大袋でお米が山積みされています。パッケージには明確な区分があり、一般食堂向けの「gạo thường(普通の米)」、香りを楽しむための「gạo thơm(香り米)」、そして日本食ブームで需要が増えている「gạo Japonica(ジャポニカ米)」などが並んでいます。現地の飲食店主たちは、自分の店で出す料理に合わせて、安くて腹持ちの良い並米を選ぶか、客単価を上げるために香りの良い高級米を選ぶか、明確に使い分けています。
現地飲食店はどんなベトナム米を使っている?
ベトナムのローカル食堂(コムビンザン)で出される白いご飯は、基本的には安価なインディカ米が使われており、パラパラとしていて味は淡白です。一方、現地の日本食レストランや韓国料理店では、ベトナム国内で栽培されたジャポニカ米や、海外から輸入されたお米を使用しているため、日本で食べるご飯と遜色ないモチモチした食感が提供されています。また、最近増えているおしゃれなカフェや高級ベトナム料理店では、特定の産地やブランドの香り米を指定して使用するなど、お米へのこだわりが強まっています。
「くさい米」を避けるために現地でしている工夫
ベトナム人であっても、ニオイの悪いお米や美味しくないお米は好みません。そのため、業務用で購入する場合でも、収穫年や精米日が新しいロットを選んだり、信頼できる精米工場のブランドを指定して買ったりといった工夫をしています。市場で買う場合は、実際に手にとって香りを嗅ぎ、古米臭がしないか、虫が湧いていないかを確認してから購入するのが一般的です。
日本の業務用スーパー・業務スーパーで売られているベトナム米
視点を日本に戻し、私たちの身近にある業務スーパーや業務用食材店で売られているベトナム米について見てみましょう。
よくある商品パターン
日本の店頭では、「ベトナム産ジャスミンライス」や「ベトナム産長粒米」といった商品名で販売されていることが多いです。陳列場所はお米コーナーの端、もしくはタイカレーの缶詰やナンプラーなどが置かれているエスニック食材コーナーで見つけることができます。業務用食材店では、インバウンド需要や在留外国人向けの飲食店に対応するため、10kg以上の大袋もあれば、一般家庭で試し買いしやすい2kg〜5kg程度のサイズも用意されています。
価格帯と“国産ブレンド米”との違い
最大の魅力はやはり価格です。国産の複数原料米(ブレンド米)と比較しても、kgあたりの単価がさらに安いケースが多く見られます。しかし、価格だけで飛びつくと失敗することもあります。先述の通り、インディカ米は炊き上がりのツヤや粘りが国産ジャポニカ米とは全く異なるため、白ごはんとしてそのまま食べる用途には向きません。価格の安さは「用途を限定すること」とのトレードオフであると理解する必要があります。
日本の業務スーパーでの主な用途イメージ
業務スーパーで購入されるベトナム米の主な用途は、ベトナム料理店やタイ料理店での使用です。カレーや炒飯、ガパオライス、カオマンガイといった料理には、粘り気のある日本米よりもパラパラしたベトナム米の方が圧倒的に相性が良く、本格的な味になります。個人で購入する場合も、自宅で本格的なエスニック料理を作りたい人や、チャーハンやピラフを大量に作って冷凍ストックしておきたいというニーズに適しています。
業務スーパーのベトナム米をおいしく炊く基本
もし業務スーパーでベトナム産の長粒種(インディカ米)を購入した場合、日本のお米と同じように炊いてしまうと失敗のもとです。基本の炊き方を押さえておきましょう。
研ぎ方・水加減・浸水時間
インディカ米は、日本米のように掌でギュッギュッと研ぐ必要はありません。表面の汚れを落とす程度に、たっぷりの水で2〜3回さっとすすぐだけで十分です。水加減は、お米の種類にもよりますが、「米1に対して水1.1〜1.3」程度が目安です(パッケージに記載がある場合はそれに従ってください)。重要なのは浸水時間で、インディカ米は基本的に浸水させる必要はありません。洗ってすぐに炊飯し、炊き上がったら10分ほど蒸らして、すぐに全体をほぐして余分な水分を飛ばすのがコツです。なお、もしパッケージに「ベトナム産ジャポニカ米(短粒種)」と書かれている場合は、日本米とほぼ同じ炊き方で問題ありません。
炊き上がりの匂いを軽くするコツ
独特のニオイを抑えるためには、研ぎ終わったらすぐにスイッチを入れること、そして炊き上がり後の蒸らし時間を長くしすぎないことがポイントです。炊飯器の保温機能で長時間置いておくと、独特のニオイがこもりやすくなるため、食べきれない分は早めに小分けにして冷凍保存することをおすすめします。
匂いが気になるときの実践的な対策
それでもやっぱりニオイが気になる、という場合に試してほしい対策があります。
保存環境を見直す
購入したお米の袋のまま常温で放置していると、湿気や酸化でニオイが強くなることがあります。開封後は密閉できる容器やジッパー付きの保存袋に移し替え、冷蔵庫の野菜室などの冷暗所で保管しましょう。また、大袋の方が割安ですが、一般家庭では消費するのに時間がかかり劣化が進んでしまうため、1ヶ月程度で使い切れる量を購入する方が、結果的に美味しく食べられます。
日本米とブレンドする
ベトナム米100%だとパサつきや香りが気になる場合は、日本米と混ぜて炊くのが有効です。ベトナム米と日本米をハーフ&ハーフ、あるいは3対7くらいの割合で混ぜると、粘りとパラパラ感のバランスが取れ、香りもマイルドになります。これは現地の定食屋でも行われている手法で、日本人にとっても食べやすい食感に近づきます。
料理側で香りを“設計”する
お米自体の香りを消そうとするのではなく、香りの強いおかずと合わせることで気にならなくする方法です。ガパオライスのようにバジルや唐辛子を使う料理、スパイスの効いたカレー、ニンニクをたっぷり使った炒飯などに使えば、お米のニオイはむしろ料理の風味を引き立てる要素に変わります。レモングラスやナンプラーを使う料理とも相性が抜群です。
ベトナム米の安全性と選び方
安すぎるお米に対して、安全面での不安を感じる方もいるかもしれません。
輸入ベトナム米の安全性の基本
日本国内に正規ルートで輸入され、業務スーパーなどで販売されているお米は、日本の食品衛生法に基づく検査や、植物検疫をクリアしています。残留農薬やカビ毒などの基準は厳しく管理されているため、過度な心配は不要です。不安な場合は、パッケージ裏面の輸入者情報を確認し、大手商社や信頼できる食品メーカーが取り扱っている商品を選ぶのが確実です。
現地・日本共通の「ハズレを引きにくい選び方」
美味しいベトナム米を選ぶコツは、パッケージの情報をしっかり読むことです。「香り米(Jasmine Rice)」と書かれていれば香りが強いのが正常ですし、逆に香りを求めていないなら通常の「長粒種」を選びます。また、精米時期や賞味期限を確認し、できるだけ新しいものを選ぶことは、古米臭を避けるための基本中の基本です。
日本の食卓でのベトナム米の上手な使い分け
最後に、ベトナム米を日本の食卓でどう活用すればよいかを整理します。
ベトナム米に向いた料理
ベトナム米(インディカ種)の本領が発揮されるのは、やはり汁気の多い料理や炒め物です。スープカレーやグリーンカレー、ナシゴレンやチャーハン、ガパオライス、チキンライス(カオマンガイ)、ビリヤニ風の炊き込みご飯などには最適です。ベトナム料理であれば、鶏の出汁で炊いた「コムガー(ベトナム風チキンライス)」や、甘辛い豚肉を乗せた「コムタム」風のワンプレートご飯にすると、現地の雰囲気をそのまま楽しめます。
逆にあまり向かない料理
一方で、お米の甘みや粘り、ツヤを楽しむ料理には不向きです。おにぎりにするとボロボロと崩れてしまいますし、寿司飯にしてもまとまりません。また、納豆ご飯や卵かけご飯といった、お米そのものの味を味わうシンプルな食べ方も、日本米に比べると食味や食感が劣ると感じやすいでしょう。こうしたメニューには、素直に国産米やベトナム産ジャポニカ米を使うのが正解です。
まとめ:業務スーパーのベトナム米とうまく付き合うコツ
業務スーパーで手に入るベトナム米は、単なる「安いお米」ではなく、使い方次第で料理の幅を広げてくれる便利な食材です。
「くさい」という噂の背景には、香り米特有の個性や、保管状態、調理法のミスマッチなど複数の要因があります。
これらが「腐敗臭」ではなく「品種の特性」や「扱いの問題」であると理解すれば、対策は難しくありません。
ニオイが気になる場合は保存方法を見直し、日本米とブレンドしたり、スパイスの効いた料理に合わせたりすることで、驚くほど美味しく食べることができます。
日本米とは異なる特徴を持った「エスニック料理用」あるいは「チャーハン用」の食材として、ベトナム米を賢く食卓に取り入れてみてはいかがでしょうか。